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海外の共同親権は成功している?共同親権の問題点や日本の課題について解説します。
2024年5月、離婚後も共同親権を選択することが可能とする改正民法が成立し、2026年までに施行されることになります。
一方、日本では、共同親権を導入することで、DVや虐待の増加、家庭内の紛争の激化などの懸念の声があがっています。
このコラムでは、共同親権が主流になっている海外と日本の法整備や支援を比較しながら、共同親権導入にあたり、日本の現状の課題や、導入後に起こりうる問題やデメリットをを解説していきたいと思います。
共同親権導入の背景とは?
離婚後の共同親権導入の背景には、離婚後の面会交流の少なさと養育費の受給率の低さという問題があります。
面会交流の実施状況と養育費の現状について
面会交流の実施状況(令和3年)
令和3年度の厚生労働省ひとり親家庭の調査では、面会交流の実施状況について以下のことがわかりました。
- 母子家庭で面会交流を現在も行っている割合は30%
- 父子家庭で面会交流を現在も行っている割合は48%
父子の面会交流の実施率が低いですね。別居している父子が面会交流を実施していない理由は何でしょうか?
面会交流を実施しない理由(令和3年)
面会交流が実施されない理由でポイントなのは、「相手に暴力や問題行動がある」、「子どもが精神的・身体的に不安定になる」といった、面会交流をすること自体が子の利益の観点からマイナスになるという理由が少ないことです。
「相手が面会交流を求めてこない」が多いことについては、事前に「月に一回面会交流をする」等の面会交流の取り決めをしている家庭が少ないことも原因にありそうです。
面会交流の取り決め状況(令和3年)
実際に面会交流をしようと思っても、面会交流の場所や何をしてすごすか、子どもの受け渡しはどうするかなどを当事者同士で話し合わなければならないため、負担が大きいですよね。
また、「養育費を支払わないから子どもに会わせない」、という主張は原則認められませんが、実際には面会交流が養育費支払いにプラスの影響を与えることが調査で明らかになっており、面会交流と養育費は密接な関係にあります。
養育費の受給状況(令和3年)
令和3年の養育費の受給状況を見ると、現在養育費を受けている世帯は母子世帯で28%、父子世帯9%と、受給率が低いことが問題となっています。
今の日本の現状として、離婚後は非監護親は子どもに会わない、養育費も渡さないという親が多く、親権者でなければ子どもに責任は持たなくていいと考えている人も少なくないようです。
共同親権導入の背景には、離婚後も父母が子どもの親であるという意識を持ち、子どもと面会交流を通して関わり続けることで、養育費の支払いを確実にし、子どもが健全に成長していける環境を整えたいという政府の目的があるんですね。
面会交流が子どもの利益になるという調査結果が多くあるけれど・・・
日本以外の主要20か国(G20)を含む24か国のうち22か国では、「単独親権」だけでなく、「共同親権」も認められています。
共同親権(共同監護)を導入している国では、「離婚後も両方の親が子どもと関わることが、子どもの利益になる」という考え方がスタンダードになっており、また離婚後も両方の親と関わりを持つことが、子どもの成長によい影響を及ぼすことが研究でも分かっています。
ただし、親に暴力の問題がある場合は良い関係性が築けないことも分かっています。
共同監護の評価
- 共同身上監護を経験している子たちの方が単独監護の子たちより、精神的、行動的、心理的、身体的健康が優れている。
- 父母の高葛藤に拘わらず、別居父宅への宿泊日数が長いほど、子は父と良い関係を保っている。
- 多くの子は別居親と頻繁に会いたいと思っており、交流の頻度と親の紛争状態が、子の幸福感と関連している。
- あらゆる年代で共同身上監護は子にとって良い結果を得ている。
- 父の暴力があると、子と良い関係性は築けていない。
出典:山口亮子,家族法制部会第5回会議資料「アメリカ合衆国の共同監護について」2021
「離婚後も父母が共同で子どもを監護できる」のが理想だし、子どもの利益にもなることは分かりました。でも、実際には面会交流のハードルはとても高いし、DV被害者支援団体の中には、共同親権に反対を表明している団体も多くあります。
では、共同監護が主流になっている海外では、うまくいってるのでしょうか?問題はないのでしょうか?
共同監護が主流のアメリカでは
ここで、離婚後も共同監護をすることが主流になっているアメリカの、離婚とその後の父母の関わりについて紹介したいと思います。
アメリカでは、1970年代以降多くの州で別居や離婚後の共同監護(アメリカでは、日本でいう「親権」は「監護権(custody)と呼ばれます。)が導入されています。
中でもカリフォルニア州法では、「父母が別居や離婚をした後も、子どもが両親と頻繁かつ継続的なコンタクトを維持するよう確保するのが州のパブリックポリシーである」と宣言し、共同監護の理念を積極的に打ち出しています。
離婚後も父母が「ビジネスライク」に共同養育を行っていくための支援が充実している
日本では、協議離婚の場合、親権を決めて離婚を提出するだけで離婚が成立します。一見、簡単に離婚できて良いように思えますが、その後の面会交流や子どもの監護については、当事者の責任で決めなければならず、後々問題が起こったり、片方の親にだけ負担がかかってしまっているという問題があります。
一方、カリフォルニア州では、離婚は裁判所の命令によって成立します。子どもがいる夫婦が離婚する場合、離婚後の監護・面会交流に関する合意を「養育計画」といい、その作成が離婚する父母に義務づけられています。紛争性の高い父母ほど、後の紛争を防ぐため、詳細な養育計画を作っておく必要があります。
養育計画として決定すべき事項
- 法的監護権について
単独か、共同か。単独の場合、決定を行った場合は他方の親に知らせるか、緊急治療についてはどうするか等、決める。 - ペアレンティング・スケジュール
子どもが父母それぞれといつ過ごすのかを具体的に記載する(何曜日の何時から何時までは父親等) - 休日・休暇のスケジュール
クリスマスや感謝祭、夏休みの過ごし方を決める。「クリスマスイブの何時からクリスマスの何時までは父親」や、隔年交代にする等 - 子どもの受け渡しのアレンジメント
子どもの受け渡しは誰がどのようにするか。知人や業者等 - その他の命令
これほど詳細な内容を決めなければ離婚できないんですね。でも、これだけ決まっていると離婚後に別途協議をしなくてすみますね。では、話し合いがうまくいかず、養育計画が作れない場合はどうすればよいのでしょうか?
話し合いがうまくできない場合、弁護士を雇う、ペアレンティング・コーディネータと呼ばれる専門家の援助を受け養育計画作成のサポートをしてもらうこともできます。
それでも話し合いがまとまらない、弁護士や専門家を雇う経済的余力がないという方は、家庭裁判所の支援で、以下の流れで養育計画を作成することになります。
家庭裁判所での養育計画作成の流れ
3時間の教育プログラム内で、離婚の際に子どもがつらい思いをしないために父母はどうすべきか、父母同士の関係をどうしていけばいいのか、DVや虐待・薬物乱用等がある場合にはどうすべきか等、専門家が講師になり、参加者は質問をしたり意見を述べたりして離婚後の父母のあり方について理解を深めていきます。
メンタルヘルスの修士号と5年以上の実務経験を持ち、DV問題を扱うためのトレーニングを受けたメディエイター(調停人)が立ち会い、父母同席で話し合いが行われます。メディエイターはそれぞれの生活状況・相手との関係・希望する養育計画を聞き取り、子どもの発達段階に応じた適切な養育方法について情報提供をしながら養育計画作成のサポートをします。多くの父母がここで養育計画の合意に至ります。
DVがある場合
父母と別々に面接し、DVの背後に存在する権力と支配の問題や、DVが子どもに与える影響を説明し、加害者・被害者に必要な地域の支援サービスを進める。監督付き面会などの安全な面会交流の方法を用いた養育計画作成をサポートします。
裁判官の命令によって親子の関係や生活状況について調査します。調査はエヴァリュエイターと呼ばれる、DVのメカニズムや対応方法に関するトレーニングを受けたメンタルヘルスの専門家が行います。エヴァリュエイターの評価を受けて、裁判官が監護時間や面会交流の方法について決定します。
DVがある場合
父母の間で発生した暴力の性質や子どもへの影響をきちんと理解し、子どもにとってどのような監護と面会のアレンジメントが最善であるかを考慮して判断を下します。例えば、安全性が確保できる業者を使用しするならば監督付面会を認める、同居親が会話をモニターし録音している状況なら電話を認める等の制限が付けられます。
日本とアメリカではDV・虐待への意識が違う
アメリカは、DVや虐待に対しての研究や国民の意識が日本とは比較にならないほど進んでおり、かなり厳しい罰則があります。
DVや虐待は犯罪とされ、日本ではよくある光景でも、アメリカでは逮捕され子どもと引き離される事例が多くあります。
また、アメリカでは「子どもの安全は社会全体が守るもの」という考えが国民の意識に根付いており、少しでも疑わしいことがあったら、見て見ぬふりはせず、通報します。
アメリカでは通報・逮捕・一時保護される可能性が高い事例
- 子ども(12歳未満)だけで自宅の敷地内で遊ばせて逮捕(ネグレクト)
- 子どもを家で留守番させ逮捕(ネグレクト)
- 幼稚園以上の子どもと入浴しているのが発覚し逮捕(性的虐待)
- お店で子どもが言うことを聞かないので怒鳴ったら逮捕(心理的虐待)
- 子どもの頭を軽く叩いたら逮捕(虐待)
- 日本人観光客が空港内で走り回る自分の子どもを抱きかかえ、乱暴に下ろして逮捕(虐待)
- 夫婦・恋人・親子喧嘩でたった1回でも叩いたら逮捕(DV)
アメリカでは、DVや虐待があっても面会交流は安全な形で実施される
アメリカでは、DVや虐待があっても面会交流が禁止されることは例外的です。DVや虐待があった場合、専門家が暴力の背景を評価し、加害親に対しては教育プログラムの参加を義務づけ、被害者に対しては自分と子どもの安全の確保のサポートをし、加害者と子どもの面会交流が、被害親と子どもにとって安全な状態で実施できるように支援がなされます。
カリフォルニア州では、裁判所が政府から助成金を受けて面会交流支援プログラムを提供している他、民間の面会交流支援団体も充実しており、プロバイダーと呼ばれる訓練を受けた仲介者が、子どもと親が安全に面会交流をすることができる環境を確保しています。
監督付き面会交流は、父母が直接顔を会わせないような配慮、セキュリティチェック、カメラや録音の備え、子どもの誘拐等に備えた地域の警察との連絡体制の整備など、安全確保のための措置がとられています。
また、裁判所には、裁判所と民間団体をつなぐ役目の職員やボランティアを置き、連携がとられ、面会交流支援サービスの提供プロセスが効率化されています。
DVや虐待から子どもを守るという社会の強い意志と、子どもが安全に親との繋がりを保てるような行政・民間の支援が充実しているからこそ、DVや虐待の問題があった家庭でも面会交流の実現が可能なのですね。
日本の現状と共同親権の先進国で出てきた問題点
法整備が先の日本の共同親権の課題
早稲田大学の原田綾子氏は、「アメリカにおける面会交流支援ー共同監護・面会交流の合意形成と実施を支える様々な取り組み(法務省より)」において、離婚や面会交流の支援について以下のように述べています。
相手に対して不信や怒りを感じている父母が、子どもの立場から相手との関係を見つめ直し、新しい家族関係を切り開いていくためには、そうしたプロセスにある父母に対する現実のアドバイスや支援が不可欠である。単に共同監護や面会交流の合意を父母に促したり、裁判所が命じたりしたところで、父母は行き詰まってしまうだろう。・・・そうした事態が起こらないよう、アメリカでは、離別に直面する父母を様々な形でエンパワーしつつ、監護や面会交流に関する合意ができるように援助し、そして、その合意を本当に子どもの利益に適うような形で実施できるようにするために、様々な支援が提供されている。
アメリカにおける面会交流支援ー共同監護・面会交流の合意形成と実施を支える様々な取り組み(法務省)より
共同親権導入が決まったばかりの今の日本の現状は、まさにこの状態ではないでしょうか。原田氏は、法的な規範のレベルだけで監護や面会交流の問題を処理してしまうことのリスクについて、以下のように述べています。
ともかく相手の権利だから、裁判所がそう命じるから仕方なく形だけは会わせるという「還元主義」の弊害が産まれ、結局は子どもの利益になるような離婚後の複合的家族関係の形成が阻まれることにもなりかねない。
アメリカにおける面会交流支援ー共同監護・面会交流の合意形成と実施を支える様々な取り組み(法務省)より
DVや虐待の加害者が、教育プログラムを受けるなどして親としての意識・行動を変えることのないまま権利だけ主張し、その結果として子どもが不利益を被ってしまうということにもなりかねません。
共同親権が主流となった欧米諸国で出ている問題
共同親権が浸透している欧米諸国では、「フレンドリーペアレントルール」という、「他方の親に友好的で、子の面会交流に肯定的な親を監護者に優先する」という原則があります。
フレンドリーペアレントルールの例
- 他方の親と子の面会交流に許容的か
- 他方の親の悪口などを子に言っていないか
- 他方の親に寛容的か
フレンドリーペアレントルールという価値観は子の利益を重視する上で大切なものです。
しかし、
- 相手が子どもに危害を加える可能性があるにも関わらず、面会交流を拒否すると監護者として不適格と判断されてしまうのを恐れ、面会交流に応じるしかないというケース
- 面会交流中に別居親が子どもを殺害するという痛ましい事件が起こっている
といった問題も大きくなり、近年はその原則を見直す動きが出てきています。
実際、共同養育を強く推奨してきたオーストラリアでは、
- 父母が離婚後の養育分担において、自身の権利・利益のみを追求し、子の最善の利益がないがしろにされるようになってしまった
- フレンドリーペアレント条項によってDVや児童虐待を受けているという主張が抑制されてしまった
という問題が起きたことを受け、2011年にフレンドリーペアレントルールが廃止されています。
まとめ~日本の共同親権のこれから
いかがでしたでしょうか?アメリカの共同監護・面会交流の支援や、先駆けて共同親権が導入された欧米諸国で直面している問題について解説してきました。
法整備から入った日本の共同親権ですが、これからの課題として、
- 離婚後の父母が、子どものために他方の親とどのような関わりをしていくかを学べる教育プログラムの整備
- 離婚後、父母が重い負担なく面会交流・共同監護を行っていけるような支援体制の拡充
- DV被害者や、虐待を受けた子どもの安全が確実に保証される社会体制
- DV加害者の教育プログラムの充実
- 社会のDV・虐待に対する意識の変革
といった、社会整備が非常に重要になってくるのではと考えられます。
共同親権が導入された後の離婚事件では、これまで以上に、DVモラハラ加害者、被害者に対する深い知識や経験が必要となります。法律事務所リベロでは、約17年間DVモラハラ事件を積極的に扱っている弁護士がおりますので、お気軽にご相談ください。
参考文献:原田綾子「アメリカにおける面会交流支援ー共同監護・面会交流の合意形成と実施を支える様々な取組み」(法務省 「親子の面会交流を実現するための制度等に関する調査研究報告書」より)