DVモラハラ親でも子どもは「パパ大好き」?「子どもには良い親」の裏に潜む危険性

自分には気に入らないと暴力を振るったり、暴言を吐く夫や妻。だけど子どもには甘すぎるほど優しい。結婚生活が辛く、離婚を考えるけれども子どもが「パパ(ママ)大好き」と言うたびに、「子どもにはいいパパ(ママ)でいるんだから、離婚しないほうがいいのかな」と悩む・・・。
夫や妻のDVモラハラに苦しむ方には、そのような葛藤を抱く方が多くいらっしゃいます。
このコラムでは、DVモラハラ親が子どもにだけは優しい理由と、子ども視点での親、親のDVモラハラが子どもにどのような影響をあたえるかについて解説していきます。
目次
DVモラハラ親が子どもに「だけ」優しい理由

小さいうちは自分の思い通りになる存在だから
DVモラハラをする親は、子どもが泣き止まなかったり、面倒な世話等の都合の悪い部分は配偶者に押しつけるといったかわいがり方をします。小さな子どもは、どんな親でも大好きです。どんなに暴力を振るわれても、暴言を吐かれても、子どもは親に愛されたいし、大好きです。子どもは無条件に父親を慕い、「パパ(ママ)大好き」と懐きます。小さな子どもはコントロールしやすいので、自分にとって都合のいい可愛らしい部分だけを愛せる存在は、モラハラ加害者にとってはとても都合の良い存在です。
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しかし、子どもが成長し、自我が芽生え意見の衝突や言うことを聞かない等の反発が見られるようになると、モラハラ言動をとるようになったり、「子どもがこうなったのはお前の子育てが悪いからだ」と配偶者に責任を押しつけるようになります。
理想的な親を演じたいから
子どもに対して物を買い与えたり、遊びや旅行に連れて行ったりもします。そのような行動は、周囲に「良い父親(母親)ですね」と言われやすいわかりやすい行動です。そして、自分でも「自分はいい親だ」と思うことができます。物を買い与えたり、遊びや旅行に連れて行くという行動は、一見優しい親のように思われますが、DVモラハラ加害者の本質は自己中心的なので、自分が賞賛されるために子どもを利用しているといえます。
子どもに自我が芽生え、自分が買い与えようとしていた物と違う物が欲しいと言ったり、旅行先で少しでも嫌なことがあると、「お前のせいで台無しだ!」「せっかく楽しませようとしてやったのに!」とキレるようになります。
子どもを味方につけて妻(夫)を孤立させたいから
DVモラハラをする親は、家族の中で自分が一番偉くなければならないと感じています。そして、配偶者を見下しています。子どもと母親(父親)が結託して、家庭での権力が自分より上になることを恐れているので、親子の中を引き裂こうとします。そのために、子どもに母親(父親)の悪口を言い、自分の見方につけ、配偶者を孤立させるために利用します。
子どもが自分の味方であるうちは子どもに優しくしますが、被害者をかばおうとするなら「お前も一緒に出て行け」といった脅しを使うようになります。
子どもがDVモラハラ親でも「大好き」と言う理由

子どもは愛されようと必死だから
幼少期の子どもは、親への無条件の愛や信頼があります。子どもが両親の喧嘩の場面や、片方に暴力を振るう場面を見ていたとしても、子どもはどんな親でも大好きです。暴力を振るう親も、暴力を振るわれている親も、どちらも大切な親であり、必死にふたりの間に立とうとします。
片方の親がもう一方の親に向ける厳しい言葉や態度を見て、心の中では葛藤しています。その葛藤や家庭にただよう緊張感の中で、加害者が時折「優しさ」を見せたり、一時的に平和な時間があると、子どもは加害者に強い依存や愛着を持つようになります。この現象は、心理学では「トラウマ性の絆」と呼ばれ、虐待児とその親、被害者と加害者の間に見られる心理現象です。
家庭内のDVモラハラを「そういうものだ」と受け入れているから
小さな子どもは、まだ価値観が形成されていません。環境適応能力も高いので、家庭内で起きている状況をそのまま現実として受け入れます。暴力や支配的な態度を「普通」と捉えてしまいます。一方で成長につれて、父親と母親との関係性や家庭内の空気感に違和感を抱くことがあります。ただし、この違和感を「モラハラそのもの」だと明確に理解できる子どもは多くありません。
加害者が被害者に向けた厳しい言葉や態度を子どもの前で繰り返すことで、子どもは無意識のうちに恐怖や不安を覚えることがあります。同時に、加害者が子どもに対して過度に褒めたり特別扱いすることで、加害者を「良い親」と感じ、自分が巻き込まれている問題に気づかない場合もあります。
DVモラハラ親の「相手の権威を貶める」洗脳
DVモラハラ行為の特徴として、「相手の権威を貶める」というものがあります。加害者が被害者に暴力を振るっていたり、自分に被害者の悪口を言うのを聞いた子どもは、複雑な葛藤に直面する一方、「パパ(ママ)は優しい」とイメージもあり、子どもは混乱します。
「なぜママ(パパ)が攻撃されるのか」「でもパパ(ママ)は優しい」といった感情の間で揺れ動き、結果的に無意識のうちに「そうか、ママ(パパ)が悪いんだ!」と被害者のせいにすることによって心の葛藤に対処するようになります。
また、暴力を振るわれたり、暴言を吐かれても我慢している親を見続け、加害者から「ママ(パパ)の言うことなんか聞かなくていいよ」と言われ続けると、子どもは加害者と一緒になって被害者を馬鹿にした言動をとるようになることがあります。子どもにとっては、自分の心や家庭でのバランスを保つため、家庭で生きるための術なのですが、被害者にとっては、子どもが加害者の味方をすることは精神的に大きなダメージを与えます。

力を持つ加害者への歪んだ感情
家庭の力関係が不均衡な家庭では、子どもは支配をしている親に対し、以下のような矛盾した複雑な感情を抱くようになります。
- 加害者に対する怒りと敵意↔加害者に対する畏怖の念と自分もそのような「力」を持ちたい
- 被害者への深い同情↔加害者側に付くことによってよって安心したい、加害者に認められたい
- 加害者に反撃したい↔加害者と絆を深めたい
- 加害者がいなくなって欲しい↔逮捕されたり、いなくなることを可哀想に思う
このような複雑な感情に対処しようと、子どもは加害者の暴力や暴言を「被害者が悪いからしょうがない」と正当化したり、「自分は被害者とは違う」ということを一生懸命証明しようとすることもあります。
そのような感情から、加害者との絆を深めようとしたり、加害者に気に入られるような言動をすることによって、子どもは歪んだ家庭の中でなんとか精神のバランスを保とうと努力しているのです。
子ども「だけ」優しいDVモラハラ夫(妻)が「良い親」とは程遠い理由

子どもの大切な母親(父親)を傷つけるのは「良い親」?
DVモラハラ被害にあっている人は、加害者に傷つけられたり、馬鹿にされることへの感情が麻痺していきます。加害者の暴力や暴言を通常の感覚より軽く評価してしまうため、父親が子どもに直接暴力を振るっていなかったり、優しくしている表面的な部分を見て、「良い父親(母親)」と評価してしまいます。
しかし、本当に良い親ならば、子どもにとって大切な親を傷つけたり、権威を貶める言動はしないはずです。本当に子どものためを考えているなら、安全で安心だと思える家庭を築く努力をするはずです。
また、今は直接暴力や暴言が見られなくても、子どもが成長したら、今度は子どもをターゲットにするようになる可能性もあります。家庭内で権力を持ち、家族を思い通りにコントロールしたいという欲求が加害者の本質にあるので、子どもが成長し、自我を持ち始めて自分の都合良くコントロールできなくなると、今まで被害者にしてきたことと同じことを子どもにもするようになります。
子どもにはどんなに優しくても、「あなたに暴力を振るったり、暴言を吐いたり、横柄な態度を取っている」その時点で、「いい親」とは程遠いと言うことを心に留めておいてください。
子どもは親が思うよりも家庭に起きていることを知っている
被害者は、「父親(母親)の暴力をうまく隠せている」「子どもには影響がない」と考えたいものです。しかし、親が思うよりも子どもはしっかりと両親を見ています。
家庭に響く怒鳴り声や、物を投げつける音、いつもと違う家の様子、暴力や暴言を受けた後の被害者の様子を、本能で感じ取っています。両親が、もう片方の親を本心ではどう思っているのかも、声色や、表情、態度から学び取っています。
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そして、成長するにつれ、子どもは「自分のせいだ」「自分が助けてあげるべきだった」と無力感と罪悪感を抱くようになることがあります。または、加害者の言動や価値観を重要な役割モデルとし、子どもも被害者や兄弟に対して、加害者と同じような態度を取るようになってしまうこともあります。
将来的に子どもが持ってしまう価値観

性別に関する歪んだ価値観
家庭での地位が男女平等になるにつれ、妻から夫へのDVモラハラの相談も多くなってきましたが、配偶者間の暴力の被害者は女性である場合が多く、令和2(2020)年に検挙した配偶者間における殺人・傷害・暴行事件の88.9%は女性が被害者となった事件でした。
暴力や支配には、加害者の歪んだ価値観や人間関係の考え方が根底にあります。そのような価値観を学びとり、成長の過程で価値観を修正できる機会に恵まれないまま大人になると、以下のような考え方をするようになる可能性があります。
- 男性は女性をいじめたり、貶めても良い
- 男性は女性に要求をする権利があるが、女性には男性に要求をする権利はない
- 暴力を振るわれるのは女性の自業自得だ
- 男性は優れていて、女性は劣っている
- 子どもに関する責任は女性にあるが、権限は男性にある
「正当な理由があれば暴力とは言えない」という考え方
どんな理由があったとしても暴力を正当化してはいけません。しかし、「お前が馬鹿で俺をいらつかせるから殴るしかないんだ」「相手に追い詰められて我慢の限界だから怒鳴った」と言う人は、言い換えると「自分に正当な理由があれば殴っても暴力とは言えない」と考えています。
DVモラハラ加害者は、自分が相手を殴ったり、怒鳴ったりすることを「暴力」と捉えていません。このような価値観のもとで繰り広げられるDVやモラハラを見て育つと、「自分に正当だと思える理由があれば相手を傷つけても良い」と自分の暴力を正当化するようになってしまうことがあります。
すべて「自分に原因がある」という考え方
子どもは、因果関係を正確に理解する力が未熟なので、DVモラハラを目の当たりにしたとき、自分に原因があると考えるようになりがちです。そして、「自分のせいでお父さんが怒ってお母さんが怒鳴られた」「お母さんを助けてあげられない自分はダメなやつだ」と罪悪感を抱くようになってしまうことがあります。
「自分の何かが悪いせいで両親の仲が悪くなっている」と考えた子どもは、「良い子」になろうと必要以上に努力して罪悪感を緩和させるか、正反対に「自分が家庭の悪い部分をすべて受け止めればよい」と考え、問題行動を起こすようになることがあります。
このような自責思考を持ったまま成長することで、大人になり理不尽であったり不当な扱いをうけても、「自分に原因があるんだ」と受け入れてしまったり、誰かに助けを求めることを「恥」と考え、孤立してしまったりと、「生きづらい」と感じる要因となります。
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人間関係は 「支配される」か「支配する」かである
DVモラハラ環境で育った子どもは、外の世界でも人間関係に影響を受けることがあります。たとえば、「支配される側」「支配する側」の関係性を自然なものとして学んでしまうケースがあります。その結果、友人関係や恋愛関係においても、不健康な依存や支配の構造を繰り返す可能性があります。また、他者との関わり方に自信を持てず、自分の意見を伝えることをためらう傾向に陥る場合もあります。
また、大人になってパートナーを持った時に、加害者と同じように相手を支配するようになったり、加害者と似たようなパートナーを選び、支配され続けるといった連鎖がおこる可能性があります。
DVモラハラ親と別居するべきか迷った時
「子どもには良い親」という幻想をすてる
どんなに普段子どもに優しくしていても、あなたに暴力を振るい、あなたを支配し、貶めようとする配偶者はいい親ではありませんし、子どもへの配慮もありません。あなたは、子どもの親として配偶者から尊重されるべきだし、自分の価値を引き下げる言動は拒否する権利があります。
どんなに子どもを巻き込まないように配慮しても、子どもは父親と母親の支配関係や緊張感を敏感に感じ取ってしまいます。子どもに見せる表面的な優しさよりも、その人の行動を見て子どもは何を学ぶか?を慎重に考えてみてください。
自分が「どんな子育てをしたいか」に焦点をあてる
被害者の親としての価値を引き下げるためや、家庭内での支配権が自分にあることを思い知らせるために、加害者が被害者の子育てを妨害することがあります。また、加害者への恐怖から、被害者が本当に親として子どもにしてあげたいことができなくなってしまいます。
- 子どもには「どんな理由があっても暴力はいけないこと」と教えたいのに、配偶者は自分に「お前が悪いからこうなるんだ」と暴力を振るう
- 「家は安心して楽しく過ごしてほしい、時には甘えることも必要だ」と思っているのに、配偶者が子どもに勉強や厳格なルールを押しつけ、甘えることを許さない」
- 「安心できる愛情のある家族」を築きたいのに、配偶者がいつ爆発するか分からず、いつもビクビクしているし、子どもも怯えている
- 子どもと生活や家族のルールを決めても、配偶者が「あいつの言うことなんか聞かなくていい」とルールを破らせる
もちろん、夫婦は違う人間同士ですから、子育てに対する価値観の違いや、意見の衝突もあります。大切なのは、「お互いの子育てに関する考え方を尊重し、話し合えるかどうか」です。
あなたが加害者に対して、子育ての方針について意見した時、威圧的につっぱねたり、激怒されるようなら、「あなたが子どもに与えたいこと」が与えられているか?を考えてみてください。
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まとめ

DVモラハラの環境が子どもに与える影響は深刻です。父親(母親)が子どもに優しい態度を取る一方で、母親(父親)に対してDVモラハラ行為をする場合、子どもはその矛盾に苦しむことがあります。子どもに対する優しさに惑わされずに、DVモラハラの心理や行動パターンを理解し、自分や子どもを守るための知識を持つことが大切です。
DVモラハラの影響を次世代に引き継がないためには、今の環境をしっかりと見つめ直し、勇気を持って断ち切ることが重要です。特に、子どもの健全な成長を守るためには、早期に専門家へ相談し、具体的な対応策を講じることが求められます。また、場合によっては離婚などの決断が不可避な場合もありますが、それによって子どもに安定した居場所と安心感を与えられる効果も期待できます。家庭内の負の連鎖を断ち切ることは、子どもに明るい未来を提供する第一歩となるのです。
法律事務所リベロでは、DVモラハラ事件に携わって17年の所長弁護士がご相談をお受けしております。DVモラハラの子どもへの影響にお悩みの方は、お気軽にお問合せください。