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【養育費】養育費は何歳までもらえる?大学に進学する場合は費用はどこまで請求できる?
調停や裁判で、裁判所が養育費を決める場合、基本的には支払いの終期は子が20歳までになります。しかし、大学に進学した場合は、20歳の時点では経済的に自立できていない家庭が多いと思います。その場合、養育費は請求できるのでしょうか?
また、子どもがまだ小さいけれど、将来大学に行かせたいので養育費を大学卒業までにしたい、という方もいらっしゃると思います。その場合、養育費の支払いを22歳までと取り決めることはできるのでしょうか?
このコラムでは、養育費の支払い終期が大学卒業までになるケースや、大学の費用はどこまで請求できるのかについて解説します。
審判や裁判では、基本的に養育費は20歳まで
養育費は、経済的に自立していない子ども(未成熟子)が、父母の生活レベルと同等の生活をすることを維持しなければならない「生活保持義務」に基づいて発生します。子どもが経済的に自立する時期については、各家庭それぞれの教育観や経済水準によって違うため、調停で養育費の終期について合意があれば、その合意のあった年齢を養育費の終期とすることができます。
しかし、養育費の終期で条件が合わず、審判や裁判で裁判所が終期を定める場合は、基本的には20歳までとなります。
2022年4月1日から、成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養育費の支払い終期は、子が未成熟子を脱する時期とされ、個別の事案に応じて判断されるため、実務上では養育費の支払い義務の終期は20歳までが基本となっています。
大学卒業まで養育費を請求できるケース
子どもが成人しても、大学等で学業を続けている場合は、経済的に自立をしているとは言えず、親が扶養する必要がある「未成熟子」に当たり、養育費の支払い義務が生じる場合があります。大学の進学率は2023年度で約60%となっており、大学進学が特別なことではなくなったため、両親の学歴や年収、子どもの意思によっては、裁判所が養育費の支払い終期を大学を卒業する22歳までと判断するケースもあります。
養育の支払いが大学卒業までになるケース
養育費の請求時点で、
- 大学へ通っている場合
- 高校2年~3年で進路が決定している、大学の系列の高校に通っている等、大学進学が確定している場合
- 大学進学を相手が承諾していた場合
- 非監護親の収入がある程度あり、両親も大学を卒業しており、大学進学が不合理で無い場合
このようなケースでは、支払い終期が大学卒業までになるのが一般的です。
相手が大学進学を承諾していると判断されるポイントは?
「大学に進学していいよ」とはっきり言葉にしていなくても、黙示でもよいとされています。面会交流の時に大学進学の話をして「頑張れよ」と応援してもらった等、精神的、物理的に受験に援助してきた場合は少なくとも黙示的に進学に承諾していると解される場合があります。(松本哲泓.『婚姻費用・養育費の算定実務』.新日本法規.令和3年.p.51より)
6年生大学(医学部・歯学部・薬学部等)の場合は?
相手の収入、学歴、地位などから、費用を負担することが不合理でない場合は、卒業までと認められる場合があります。
- 非監護親が医者など社会的地位があり、収入も相当にある。 など
特に非監護親が開業医の場合などは支払いが認められる例が多いです。
まだ子どもが小さい場合は?
子どもがまだ小さく、大学に進学するか不明な場合は、監護親に子どもを大学に進学させる意思があっても、非監護親が拒否する場合は支払い終期を大学卒業までとすることは難しいでしょう。
離婚調停でまだ話し合いができる段階であれば、支払い終期を20歳までとし、「大学に進学する場合は別途協議」と条項に記載することで、大学進学の歳に相手に請求しやすくなりますし、当時相手も大学に進学することを前提があったことを示すことができす。
なお、審判や裁判では、「別途協議」という文言が入るケースは少なくなります。子どもが幼いころに離婚し、支払い終期が20歳になっているが大学進学時は相手にも負担してほしいという方は、その後の面会交流などで、成長過程で非監護親と進路について話し合う機会を設け、黙示でも大学進学を承諾を得ることが大切です。支払い終期が近くなり、協議ができない場合は、「養育費調停」を申立て、支払いの延長を請求する手続きを行うことができます。
大学の費用はどこまで負担してもらえるか?
大学に進学した場合、負担の対象となる費用は
- 授業料
- 通学費用
- 仕送金(下宿代)
等が含まれます。両親の収入や奨学金、アルバイト収入等の事情を考慮して、分担額が決められることになります。
養育費に加算できる?
養育費の算定表には、15歳以上の場合、公立高校の教育費として年33万3844円が考慮されています。学費を分担する場合は、約33万を超えた教育費について父母で分担することになります。
大学費用の負担額についての判例紹介
相手方の経済状況や子どものアルバイト代・奨学金の収入を考慮して、私学費が加算されなかった事例
妻(申立人)の基礎収入(税金や社会保険料を除いた額)は404万、夫(相手方)は300万であり、長女は私立大学の3年生、二女は私立大学の1年生。婚姻費用分担申立で、妻は長女・二女の大学の費用について加算を求めました。長女の私立大学の学費は年間88万円、定期代で7万5000円がかかっていましたが、長女は月5万4000円の奨学金を借りており、アルバイトもしていました。審判では、「二女が平成27年4月に私立大学に進学しているから、算定表で考慮されている学校教育費等を超える部分については、それぞれの収入で按分すべきである。なお、長女も私立大学の3年生であるが、アルバイトによる収入があること、長女自身が奨学金の貸与を受けていること、長女の年齢及び相手方の経済状況を考慮すると、本件では長女の私学費について加算するのは相当ではない。」とされ、この件では二女の私学費のみ月3万円が加算されました。
東京家裁平成27年6月26日審判
歯科大学の学費分は認められなかったが、親の学歴と同程度の学費の負担義務はあるとされた事例
歯科大学に通う子どもが、別居している父に対し歯科大学の学費を扶養料請求という形で請求。進学時は夫婦は同居しており、母の実家の援助を当てにしていたが、その後夫婦が別居することになりました。子は父に対し負担を求めた費用は、学費が年間483万、家賃月額6万強でした。裁判所は「相手方の学費は抗告人の地位、収入に比して、不相応に高額であり、親が子に対して負う扶養義務の範囲を超えるものといわなければならない。もっとも、抗告人自身、○○大学の文系を卒業し、社会的に相当の地位にあり、かつ、収入も低くないことからすると、4年生の私立大学の文系を卒業するのに必要とされる程度の学費の負担義務はあるというべきである。」としました。
大阪高裁平成21年10月21日抗告審
私立大学進学の承諾を得られてなかったため、国立大学の費用分の学費を分担すべきとされた事例
母が父に対し、長女・二女の養育費分担を請求した事例。父の年収は約334万、母の年収は約192万で、長女は私立大学の一年生で、学費は年額85万、通学費13万でした。父は、長女の国立大学進学は了解していましたが、私立大学進学は了解していませんでした。裁判所は、「長女の私立大学進学を前提とした学費の負担について抗告人が負担を了承していたと認めるに足りる適格な資料はない。しかし・・・長女が国立大学に進学することを視野に入れていたと認められるのであるから、国立大学の学費標準額及び通学費用分については抗告人も応分の負担をするものとして養育費の額を算定するのが相当である。」としました。また、「当事者双方の収入等からすると、仮に、当事者双方が離婚していなかったとしても、当事者双方の収入で長女の学費等の全額を賄うのは困難であり、長女自身においても、奨学金を受けあるいはアルバイトをするなどして学費等の一部を負担せざるを得なかったであろうことが推認される」とし、父が負担する費用は、国立大学の学費年額約66万ー算定票の教育費約33万=約33万のうち、3分の1が相当であるとされました。
大阪高裁平成27年4月22日抗告審
まとめ
子どもの大学費用については、4年生の国公立大学でも学費、通学費、下宿費費用高額になるため、離婚を考えている方、ひとり親の方は大きな悩みの1つとなっている方が多いと思います。
養育費は、離婚時の父母の収入の状況によって成人までの金額が決定してしまいますが、お互いの収入状況や健康状態、子育て状況は変化するものです。そのため、収入状況や生活状況の変動に応じて「養育費増額調停」「養育費減額調停」を申し立てることもできます。
婚姻中の有無にかかわらず、父母には未成熟子を扶養する義務がありますから、子どもの利益を第一に、夫婦で学費について分担することが望ましいでしょう。また、現在は市区町村や民間団体の「返済不要型奨学金」「入学金給付」等、さまざまな進学支援もありますので、それらを活用することもおすすめします。