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【共同親権】ついに共同親権が実現する?共同親権の法案をわかりやすく解説ー親権・監護権編ー
令和6年1月30日、離婚後の共同親権導入を柱とする民法改正の要綱案が採決されました。今回採決された要綱案をもとに、国会に法案を提出する見通しで、成立すれば77年ぶりに離婚後の親権に関する家族法制の改正が行われます。
★3/11更新・・・2024/3/8に、改正案は閣議決定されました。
★5/17更新・・・2024/5/17に、改正案が参院本会議で可決され、成立しました。改正法は2026年までに施行するとされています。
離婚を検討している人やひとり親の方は、「共同親権」という言葉を耳にする機会がとても多かったのではないでしょうか?「別れた夫と離婚後ずっと一緒に子育てしなきゃいけないの?」「DVモラハラで逃げても、子育てに元夫の同意が必要なの?」共同親権をめぐるさまざまな団体の訴えを聞いて、不安になっていた人も多いらっしゃるとおもいます。
このコラムでは、
- 共同親権が導入された経緯を詳しく知りたい!
- 共同親権の導入にあたって、当事者達の意見はちゃんと反映されたの?
- 他にはどんな見直しがされたの?
という方のために、要綱案についての解説や、話し合いの内容、今後の動きについて分かりやすく解説してきたいと思います!
今回は、親権・監護の項目について解説します。
親権とは?
家族や親子関係、相続に関する規律は、民法で定められており、民法の第4編「親族」・第5編「相続」に、家族(夫婦・親子・親族)の身分関係および財産関係について定めらています。この領域は「家族法」と呼ばれています。
親権については、民法第820条で
「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」
民法第820条より
と記載されています。
未成年の子どもを成人まで育て上げるための権利であって、義務でもあります。
親権とは具体的にどのような権利なの?
親権には、⑴子の「身上監護権」およびその義務、⑵子の「財産管理権」およびその義務、⑶子に代わって法律行為を行う権利およびその義務の3つに大きく分けられます。
⑴ 子の「身上監護権」およびその義務
「身上監護権」は、子どもの世話をし、教育をして一人前に成熟した大人に育てていく養育監護の権利と義務のことです。
また、身上監護権は具体的に3つの権利が民法で定められています。
- 監護教育権:「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」(民法820条)
- 居所指定権:「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。」(民法822条)
- 職業許可権:「子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。」(民法823条)
2022年の民法改正案で、親権者による懲戒権の規定が削除されました。つまり、親権者には子どもを懲戒(不正・不当な行為に対して、制裁を与えること。)する権利を持っていないこととされました。
監護教育権については、「子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」という条項が付け加えられました。(民法821条)
⑵ 子の「財産管理権」およびその義務
「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。」(民法824条)
⑶ 子に代わって法律行為を行う「法定代理人」としての権利およびその義務
未成年の子がなんらかの契約等(高校の在学契約等)をする必要がある場合、子に代わって契約を行うことができる(法定代理人)。また、成年者が法定代理人の同意を得ずに契約をした場合、契約を取り消すことが出来る(民法5条)。
つまり、未成年の子どもが住む場所を決めたり、仕事をしたり、何かの契約をするには親の同意が必要だと法律で決まっているんですね。
日本の現在の法律では、離婚後は単独親権になる
民法では、婚姻中の親権について「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。」(民法818条)と定められています。
離婚後の親権については、
- 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない(民法819条)
- 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。(民法819条)
と定められており、現在の日本の法律では、離婚後は単独親権(母か父どちらか片方が親権を持つ)となっています。
現行の家族法が見直されるきっかけは?―家族法制部会について―
現在の家族法制の見直しが必要な要因として、
- 父母の離婚を経験した子の置かれている状況
- 子育ての在り方やそれに関する国民意識の多様化
- 社会の各分野における女性の一層の参画といった社会情勢
- 子に関わる近時の立法の動向や児童の権利に関する条約の批准後の状況
を背景に、国内外から様々な指摘がされていること。
具体的な指摘は、
- 離婚後の親権制度の在り方
- 養育費の支払い確保
- 安全安心な親子交流に向けた取り組みの促進
- 養子縁組制度の在り方
- 父母の離婚時の財産分与制度の在り方
について、検討が必要であるとのこと。
これらの指摘を踏まえて、令和3年2月に法務大臣より「離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい」との諮問( ある事案に関して、有識者で構成された審議会などのような機関に問い、見解を求めること)がされ、その調査審議のため家族法制部会が設置されました。(家族法制の見直しに関する中間試案の補足説明より)
親権とか監護という言葉や制度そのものが明治民法の時代に導入をされて、それなりにうまくいっている部分もあったかと思いますけれども、翻ってよく考えてみると、それが時代や社会の変化の中で適合しなくなっている部分はありますのでそういうことを一つ一つ議論しながら詰めていく作業が必要だと思います。(第6回会議議事録より 棚村委員)
家族法制部会ではどんな話し合いが行われているの?
部会では、令和3年3月から概ね1ヶ月に1回のペースで1月30日のとりまとめまで全37回の会議が行われました。その会議の内容は、各専門家である家族法制部会のメンバーが、離婚後の養育現状等に関する調査、当事者達のヒアリング、国民の意見(パブリックコメント)等を元に、要綱案作成のための意見交換等を行うものでした。
法制審議会-家族法制部会(全37回の会議の詳細が見られます。)
家族法制部会のメンバー
法学、社会学、経済、家族法を専門とする学者や、家族法専門で子どもの虐待ケースを多く扱う弁護士、離婚、セクハラ等の性差別を多く扱う弁護士、シングルマザー支援を行うNPO法人、離婚後共同親権導入を目指す団体など、計23名で構成されています。
法制審議会家族法制部会委員等名簿(法務省より)
さまざまな当事者からのヒアリング
離婚及びこれに関連する制度の見直しについて意見交換するために、父母の離婚に伴う子の養育に関する実情等について、さまざまな立場の当事者へのヒアリングが行われました。
- 親の離婚を経験した子の立場
- 離婚を経験した監護親または非監護親の立場
- 子育て世代の立場
- DV被害者支援の現場
- 家庭問題に関する支援の現場
- DV被害者の立場
- 離婚等係争中の同居親の立場
- 離婚を経験した同居親の立場
- DV被害者かつ別居親の立場
パブリック・コメントの募集
令和4年12月6日~令和5年2月18日まで、「家族法制の見直しに関する中間試案に関する意見募集」として、パブリック・コメント制度を利用した意見公募が行われました。パブリック・コメントは、e-Govというデジタル庁が運営する行政情報サイトで募集されています。
パブリック・コメント制度とは?
国の行政機関は、政策を実施していくうえで、さまざまな政令や省令などを定めます。これら政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続が、パブリック・コメント制度(意見公募手続)です。
結果、様々な団体・個人から8000件を超える意見が提出され、共同親権に対する国民の高い関心を示す結果となりました。
パブリックコメントに寄せられた意見の概要はこちらです。
「家族法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要(令和5年8月29日開催会議の参考資料)
採決された要綱案はどんな案なの??
令和6年1月30日にとりまとめられた要綱案はこちらからご覧になれます。
- 「家族法制の見直しに関する要綱案」(令和6年1月30日開催会議より)
- 「附帯決議」(法律を執行するに当たっての留意事項)
家族法制の見直しに関する要綱案の親権・監護に関する見直しポイントは以下の5つです。
親権・監護に関する家族法の見直しポイント
- 親権・婚姻に関わらない「父」と「母」の責務の明確化
- 親権行使に関する規律の整備
- 離婚後の親権について、協議離婚の場合、父母が話し合いの上で双方または一方を親権者と定める
- 裁判上の離婚の場合は、裁判所が父母の双方または一方を親権者と定める
- 監護の分掌(分担のこと)
ポイント① 親権・婚姻に関わらない父母の責務の明確化
今回の家族法制部会の中で、最も考慮されなければならないとされていたのは「子どもの利益」でした。
現在の離婚後の父母の養育の実態、養育費や面会交流の実態、法や支援制度が現状子どもの権利を最優先としているとは言えないこと。離婚後も子どもが健全に育っていくための制度と支援について、父母は、社会はどのように取り組むべきかという意見交換がなされました。
子どもの健やかな成長を確保する責任は、両親が生活を異にしたとしても、双方で継続して維持すべきものであり・・・、離婚後、親権を持たない父母は、親としての義務、責任の自覚がない場合もあり、養育に関わらなくなる現状もあります。(全国母子寡婦福祉団体協議会海野参考人)
親子関係に関する基本的な規律を整備する必要がある理由としては、現行民法では、規律が必ずしも明確でないため、親権者でない父母が子に対して何らかの責任を負わないかのような誤解がされることがあり、それが養育費の不払い等の一因となっているおそれがあることが指摘されました。
また、父母が子の養育についての権利や権限を有するとしても、それは子以外の第三者との関係で主張することが出来るものであり、子に対する支配権を有することを意味するものではないことも指摘されました。(要綱案のとりまとめに向けた議論のための補足説明資料より)
こうした議論を踏まえ、要綱案では以下の項目が掲げられました。
第1 親子関係に関する基本的な規律(タップして要綱案を読めます)
1 父母(親権者に限らない。)の責務等の明確化
親権の有無にかかわらず父母が負う責務や権利義務等を明確化するため、次のような内容の規律を設けるものとする。
⑴ 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
⑵ 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
2 親権の性質の明確化
民法第818条第1項の規律を次のように改めるものとする。
親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。
(家族法制の見直しに関する要綱案より)
親権の有無に関わらず、子どもの扶養義務があるということをが明確化されました。部会でも、養育費の確保は一番始めに議題に上がった問題でした。
ポイント② 親権行使に関する規律の整備
婚姻中は私と夫どちらにも親権があるというけど、子どもの世話をしてるのはほぼ私なので、日常の子育てに関することは私が単独で決めてることが多いのよね。
婚姻中(父母どちらにも親権がある)のAさんのように、子どもに関することについて、どちらか片方の親が単独で親権行使をすることがありますよね。
子どもの進学について、子どもが希望する学校が遠方で一人暮らしになってしまうため妻が反対している。子どものことを考えると、希望する学校に行かせてあげたい。
婚姻中(父母どちらにも親権がある)のBさんのように、子どもの重要な事項、特に契約に関わることで夫婦間でかなり揉める時もありますよね。
婚姻中でも子どもに関して意見が対立することはたくさんあって大変だったのに、離婚して双方に親権があったら子どもの養育や進路について意見が対立したときどうすればいいの・・・?!
現行の民法では、父母双方が親権をもつ場合(婚姻中)の親権行使についてあいまいな部分がありました。離婚後の共同親権を導入するにあたって、親権に関する規律の整備をすることが必要不可欠でした。それを踏まえて、婚姻関係にあるかどうかを問わず適用されるルールとして、要綱案では以下の項目が掲げられました。
第2 親権及び監護等に関する規律(タップして要綱案を読めます)
1 親権行使に関する規律の整備
民法第818条第3項の規律を明確化するため次の⑴及び⑵のような規律を設けるとともに、親権行使に関する父母の意見対立時に対応するための仕組みとして次の⑶のような規律を新設するものとする。
⑴ 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
- ア その一方のみが親権者であるとき。
- イ 他の一方が親権を行うことができないとき。
- ウ 子の利益のため急迫の事情があるとき。
⑵ 父母は、その双方が親権者であるときであっても、上記⑴本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
⑶ 特定の事項に係る親権の行使(上記⑴ただし書又は上記⑵の規律により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる(注)。
「急迫の事情」は、具体的には入学試験の結果発表後の入学手続きのような期限があるもの、DVや虐待からの避難、緊急の医療行為を受けるための診療契約などが考えられます。
「特定の事項」は、日常の行為以外の重要な事項に係る身上監護または財産管理や身分行為に限られます。具体的には、居所の指定または変更、高校との在学契約を締結する場合が想定されます。例えば父母双方が親権者である場合において、父母が別居する際どちらの親が子と同居するかについて意見対立がある場合には、子と同居することを求める父母の一方が家庭裁判所に「居所指定決定権についての親権行使者の指定」を求める申立てがされるケースが想定されます。
ポイント③ 協議離婚の場合、父母が話し合いの上で双方または一方を親権者と定める
この規定がいわゆる「離婚後共同親権」に関するものです。婚姻に関わらず父母は子どもの養育に責任を負うものとして、離婚後も父母が子どもの重要な事項について父母双方の熟慮の上で決定されることを確保すべき場合があり、これに対応するための規律が必要であると、規律の見直しを求める意見がありました。
この議題については、賛成派・否定派で様々な意見が検討されました。
婚姻中は、父母双方の関与の下での意思決定が子の利益の観点から望ましいとされるが、それは父母間の信頼関係や協力関係が期待できることが前提です。父母の離婚後は相互の信頼関係や協力関係がうしなわれているのが通常です。信頼関係や協力関係のない離婚後の父母が共同して親権を行使しなければならないとなれば、父母間の意見対立が生じた場面で、子どもの教育や契約などの法的手続きを適時に行うことができないおそれや、父母間の紛争の継続・激化につながるおそれがあり、子の利益に反するのではないでしょうか。
昭和22年民法改正時に離婚時に親権を父母の一方と定められたのは、当時は共同生活を営まない父母が親権を共同して行使することは事実上不可能であると考えられていたためです。70年以上が経過した現在においては、離婚後も父母が子の養育についての信頼関係や協力関係を維持することができている事例や、離婚後の父母双方を親権者とすることを父母の双方共が望んでいる事例があります。この現状を踏まえると、離婚後の親権者を父母の一方にのみ定めることを一律に必要とする現行民法第819条は、その合理的根拠を失っているでしょう。
離婚後の父母双方が親権者となることによって子の利益が害されるおそれがあるとの懸念に対しては、一定の場合には離婚後の父母の一方のみを親権者とすること、父母間の意見対立が生じた場面での調整の仕組みを整えること等で対応できるのでないでしょうか。
現在の父母の一方のみを親権者とする現行民法でも、事実上子の監護教育や財産管理に関する意思決定を父母双方の関与の下で行うことは可能なので、現行民法を改正しなくても子の利益にとっての不都合はないのでは?
事実上できていたとしても、それは現行民法の規律を前提とする限り、法律上は親権者としての権利義務のないものが、あたかも親権者であるかのように行動することにほかならならず、制度的な裏付けを欠く不安定なものです。離婚後も関係が良好な父母であっても、親権行使の具体的な場面においては意見が相違する可能性もあるが、現行法ではこのような個別的な意見対立を調整する仕組みが無く、当事者任せとなってしまっています。このような状態は子どもの利益にとって望ましい状態でないのでは?
離婚後に父母双方が親権者となる場合、婚姻中や離婚時に父母間に存在していた紛争や父母の一方から他方に対する支配・被支配の関係が離婚後も継続してしまい、子や同居親の安全・安心が害されるおそれや、子が父母間の紛争等にさらされ続けるおそれがあります。精神的DVなど表面化し難い支配・被支配関係もある中で、DVや虐待がある事案を家庭裁判所で適切にスクリーニングすることが可能なのか疑問です。
DVや虐待の懸念に対応する必要があることは前提ですが、懸念のない事案にも一律に離婚後の親権者を父母の一方のみにすることを要求する合理的根拠にはならないでしょう。子の利益の確保の観点から養育が行われるためには、社会的なサポートが重要です。DVや虐待を防ぎ、子の安全安心を確保すること、父母の別居や離婚に伴って子が不利益をうけることがないようにするためにも、法的支援、行政や福祉の支援も充実させることが必要です。
家族法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(2)より
子どもの意見・意向等が適切な形で尊重されるにはどのような仕組みが必要かについて、さまざまな家庭環境・養育上の場面を想定した意見交換が行われました。議論を踏まえて、要綱案では以下の項目が掲げられました。
2 父母の離婚後等の親権者の定め(タップして要綱案を読めます)
⑴ 父母が離婚をするときはその一方を親権者と定めなければならないことを定める民法第819条を見直し、次のような規律を設けるものとする。
- ア 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
中間試案では、「原則親権を父母一方に定める」「原則親権を父母双方に定める」という案もありましたが、パブリックコメントやその後の議論を経て上記の案になりました。
ポイント④ 裁判上の離婚の場合は、裁判所が父母の双方または一方を親権者と定める
要綱案のなかで、協議離婚の際には、父母が話し合いの上で親権をどちらか一方にするか、双方にするかを決めることができるとされました。では親権に関して意見対立があった場合はどうなるでしょうか?
要綱案を見ていきましょう。
第2 親権及び監護等に関する規律(タップして要綱案を読めます)
2 父母の離婚後等の親権者の定め
⑴ 父母が離婚をするときはその一方を親権者と定めなければならないことを定める民法第819条を見直し、次のような規律を設けるものとする。
- ア 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
- イ 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
- ウ 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
- エ 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
- オ 上記ア、ウ若しくはエの協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をする。
- カ 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
- キ 裁判所は、上記イ、オ又はカの裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の①又は②のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
-
- ① 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
- ② 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(下記クにおいて「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、上記ア、ウ又はエの協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
- ク 上記カの場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
⑵ 父母の一方を親権者と定めなければ離婚の届出を受理することができない旨を定める民法第765条第1項の規定を見直し、離婚の届出は、成年に達しない子がある場合には、次の①又は②のいずれかに該当することを認めた後でなければ、受理することができないものとする。
- 親権者の定めがされていること。
- 親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていること(注)。
下記が親権についての要綱案のポイントです。
- 親権について父母で協議出来ない場合(調停で話し合いが成立しない場合)、家庭裁判所が親権者の指定の審判をする。
- 親権者の指定を求める調停又は調停が申し立てられていれば、離婚届だけ先に出すことが出来る。(現行民法だと親権者が定まらないと離婚届は受理されない。)
- 裁判所が親権者を双方または一方と定める場合、DVや虐待、その他の事情を考慮して判断される。
DV等がある場合、協議離婚で親権者を決める際に父母間の支配・被支配関係によって不適切な合意がされてしまうおそれに対応するために、離婚と親権者指定を切り離して親権者の定めだけ家庭裁判所の手続きで取り扱うことができるようにすることが目的のようです。(家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台より)
ポイント⑤ 監護の分掌(分担のこと)
離婚後に双方が親権者になった場合、日々の子育てや住居についても元夫の同意がないとダメなのかしら
双方が親権者となった場合でも、実際は父母どちらかが子どもと同居して養育をしますよね。実際に子どもと同居し、養育をする父母には「身上監護権」があります。
現行民法でも、離婚前提で夫婦が別居したケースで、どちらが子どもと同居し養育をするかについて意見が対立する場合、家庭裁判所に子の監護者を定める審判を申し立てることができます。離婚が成立しておらず親権が双方にある場合でも、監護者に指定されれば、身上監護権を行使することができます。
父母双方が親権者になった場合、監護者はどのようにして決めるのでしょうか?要綱案を見てみましょう。
3 離婚後の子の監護に関する事項の定め等(タップして要綱案を読めます)
⑴ 離婚後の父母双方を親権者と定めるに当たって、父母の一方を子の監護をすべき者とする旨の定めをすることを必須とする旨の規律は設けないものとした上で、離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関して民法第766条第1項が規定する「子の監護について必要な事項」の例示に「子の監護の分掌」を加えるものとする(注)。
⑵ 子の監護をすべき者が指定された場合における権利義務について、次のような規律を設けるものとする。
- ア 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定により定められた子の監護をすべき者は、同法第820条から第823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。この場合において、子の監護をすべき者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすることができる。
- イ 上記アの場合には、親権を行う者(子の監護をすべき者を除く。)は、子の監護をすべき者が上記ア後段の規定による行為をすることを妨げてはならない。
- (注) 子の監護の分掌について、家事事件手続法を改正して、給付命令等(同法第154条参照)に関する規律を整備するものとする。
以下が要綱案のポイントです。
- 協議離婚の際は、どちらを監護者にするか決めるのは必須ではなく、話し合って監護を分担すること。
- 協議できない時は、調停や審判で監護の分掌を定める。その際、すべての事項について定めるのではなく、教育に関する事項、といった必要な事項についてのみ定めることも可能。
- 監護をする親は、単独で子育てや教育、住む場所、就職について許可、許可を取り消し、制限をすることができ、それをもう一方の親権者が妨げてはならない。
監護の分掌については、子を監護を担当する期間を父と母で分担したり、監護に関する事項の一部(例えば教育に関する事項)を切り取ってそれを父母の一方に委ねたりといった決め方が考えられます。あくまでも身上監護権に属する事項で、財産管理、法定代理権の行使は親権に属します。(要綱案の取りまとめに向けた議論のための補足説明資料より)
まとめ
いかかでしたでしょうか?
法制審議会は、2月中旬にも総会を開いて要綱を決定し、小泉法務大臣に答申することにしています。それを受けて法務省は、とりまとめられた要綱案をもとに、民法の改正案を今国会(6月まで)までに提出し、成立を目指す方針だそうです。
※2024/5/17に、改正案が参院本会議で可決され、成立しました。改正法は2026年までに施行するとされています。
要綱案が実現するには、役割が増える家庭裁判所の適切な運用や、手続きの整備・支援の充実など、今後の課題になりそうです。
次回は、要綱案の養育費についての項目を解説していきます!
養育費編はこちらの記事をご覧ください!