加害者なのになぜ被害者面?DVモラハラ妻・夫が被害者ぶる心理と対処法

DVモラハラ加害者の特徴として、やたらと被害者ぶるところがあります。
話し合いの場で突然泣き出きだし、自分は家族、子供のことをいつも大切に思っていた。妻が家を出て行ったことなど信じられないと言います。
しかし、何度も交渉を重ねているうちに本性を現すようになり、依頼者に対しても、かなりの攻撃的な態度や嫌がらせと思われる態度を繰り返すようになります。
この「被害者ぶる」というDVモラハラ加害者の特徴はとってもやっかいで、周囲の人や、時には調停委員でさえも「実は悪いのは被害者の方だったのではないか」と疑うようになることがあります。そして、もっとやっかいなのは、加害者は本当に自分が被害者だと感じていることです。
このコラムでは、モラハラ加害者が被害者ぶる心理と実態、対処法について解説します。しっかりと理解することで、相手の「被害者ムーブ」に負けずに冷静に対処することができるでしょう。
目次
なぜ加害者は自分が被害者だと思っているのか

「特権意識」を持っているから
加害者は、「自分は家族の中で最も偉い」「家族は自分の言うことを聞くべきだ」「自分は家族のトップなのだから、何をしても良い」という特権意識を持っています。
そして、家族が自分と同じような権利があることを認めようとしません。「自分はいいけど相手はダメ」という身勝手さがあります。
ですので、家族が一人の人格を持った人間としての振る舞い(疲れたから休む、楽しみを持つ、反対意見を言う)をすると、「お前が好き勝手して俺の権利を侵害した!!」と「被害者意識」を持つのです。
特権意識を持っている人の思考
- 「自分は金を稼いでいるんだから家族は自分の言うことを聞くのが当然だ!」
- 「俺は一家の主なんだから、家事育児はする必要がない」
- 「家族が好き勝手行動しないようにしつけが必要だ!」
「自分が一番可哀想」という自己憐憫が強いから
自己憐憫(じこれんびん)とは、「自分で自分を可哀想だと思うこと」です。「悲劇のヒロイン」とも言われます。
辛いことがあったり、傷ついたりしたときに、立ち直るために「自分をいたわる」ことは健康的な方法です。
一方、自己憐憫は、かわいそうな自分に「酔う」ことができ、快感を伴うので、なかなか抜け出すことができません。
自己憐憫が大好きな人は、「自分は常に被害者」でなければならないので、自分が傷ついたり嫌な思いをすることにはとても敏感です。一方、共感能力が欠如しており、他人が傷ついたり、苦しんだりすることには鈍感です。
よって、相手からの要望に対しても、「私の方がもっと辛いのだからお前が我慢すべきだ」「お前は甘えている」と自己中心的な考えで歩み寄ろうとしません。
自己憐憫に陥っている人の思考
- 「私が一番大変な思いをしている、なぜ自分ばかり!」
- 「自分はこんなに可哀想なのだから、みんな私を特別扱いするべきだ!」
- 「こんなに頑張ってるのに誰も理解してくれない!」
- 「こんなに傷ついているんだから自分に配慮するべきだ!」
「自分のやり方が正しい」という思い込みが激しいから
DVモラハラ加害者は、「~しなければならない」「~すべきだ」という「べき」思考が強い人が多く、独自の「マイルール」を持っています。
このマイルールは、周囲から見るとあまりにも偏っていたり、理解できないルールであることも多いです。
DVモラハラ加害者は、白黒思考が強く、加害者本人も自分のマイルールに縛られいます。
マイルールから逸脱したり、相手にされたりすると非常に強い不安を感じますし、自分のやり方が正しいと思っているので、自分の思い通りに動かない相手を「非常識な奴」、「自分を攻撃している」と敵認定します。
その不安を解消するために、また「相手を正してやる」ために、相手を自分のマイルールに従わせようとします。
マイルールに固執する人の思考
- 「専業主婦なら家事は完璧にすべきなのに、食事の用意ができてないなんて、俺へのあてつけか!」
- 「謝ったら負けを認めることになる、自分は絶対に負けてはいけないのだから、自分からは絶対に謝らない!」
- 「家族は休日は一緒に過ごすものなのに、勝手に友達との予定や外出の予定を入れるなんて、自分を蔑ろにしている!」
このマイルールの形成は、両親の価値観や、育ってきた環境による影響が大きいため、自分の中のルールがおかしいことに気づくことは困難です。
また、ASD(自閉スペクトラム症)傾向がある場合、強いこだわりや、融通が利かないといった特性から、マイルールを相手に押しつけてしまうケースもあります。
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自分の加害行為を正当化したいから
DVモラハラ加害者が被害者であるかのように振る舞う背後には、自分の加害行為を正当化したいという欲求があります。
その背景には、罪悪感や劣等感といった心理的要素が隠れています。
多くのモラハラ加害者は、内面的には自己否定感が強く、他者を支配することを通じてその不安を緩和しようとします。
しかし、同時に罪悪感に苛まれていることも多く、それを相手に転嫁しようとするのです。
自分が相手を傷つけてしまったことに対する罪悪感や劣等感に向き合うことができないので、自分に落ち度がないどころか、むしろ自分こそが被害者であるというストーリーを作り上げ、相手を加害者に仕立て上げて安心しようとします。
加害行為を正当化する人の思考
- 「自分は殴りたくなんてなかったのに、お前が俺を怒らせてから殴るしかなかったんだ。お前が悪い。」
- 「自分はこんなにも傷ついているのだから、少しくらい強く当たったって許されるはず」
自己愛性パーソナリティ障害の影響
モラハラ加害者には、自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれる心理的特徴が見られる場合があります。
この障害は、自分自身を特別な存在と考え、他者からの称賛や承認を強く求める傾向を持つ特徴があります。
しかし、その内面には非常に脆い自尊心が存在し、批判や失敗を受け入れにくいのが特徴です。
そのため、自身の弱さを認める代わりに、被害者面をすることで自分の価値を守ろうとします。
また、自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、共感に乏しい場合も多いため、被害者が味わう苦しみに無関心である場合があります。
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過去のトラウマを他者に投影しているから
加害者の心理には、過去に受けたトラウマや心理的な傷が影響している場合もあります。
加害者が被害者面をする背景には、自分自身がかつて被害を受けていた経験が根付いていることがあります。
その傷が癒えないまま、自分が受けた苦しみを他者に投影する形で加害行為を行いながらも、「自分こそが被害者だ」と認識してしまうケースがあります。このような連鎖は、虐待やDVモラハラでよく見られる現象です。
しかし、過去の辛い経験を言い訳にして他者を苦しめる行為は許されるものではなく、こうした行動を改善するには専門的なサポートが必要です。
「被害者ぶる」加害者に、被害者が取るべき対処法

相手の言動に振り回されないよう境界線を引く
モラハラ加害者に立ち向かうには、まず自分と相手との間にしっかりと境界線を引くことが重要です。
モラハラ被害者は、加害者の「被害者面する」行動や心理的な操作に巻き込まれ、どの範囲までが許容できるかを見失いがちです。
しかし、自分の時間や感情、行動を守るためには、自分にとって譲れない境界線を明確にし、それを相手に示す努力が必要です。
例えば、「これ以上の否定的な言葉には応じない」「家計や行動の管理は自分で行う」といった具体的なルールを設定しましょう。
また、境界線を引いたとしても、加害者がそのルールを守らない可能性も考えられるため、毅然と対応する姿勢を持ち続けることが求められます。
相談機関へ相談する
DVモラハラ加害者の行動に苦しんでいる場合、一人で解決しようとせず、専門家や第三者のサポートを活用することが効果的です。
加害者の支配の中にいる被害者だけでは正確な判断が難しい場合があります。
このような場合、心理カウンセラーや弁護士、あるいはDVモラハラ被害者支援をしている相談機関へ相談することで、客観的なアドバイスを得ることが可能です。
さらに、加害者が周囲に「自分が被害者だ」とアピールしているような状況では、被害者は孤立しがちです。
DVモラハラのやり口を熟知している専門家に相談することで、加害者の被害者アピールや自己正当化に負けずに、冷静に対処しやすくなります。
相手の具体的な言動を記録に残す
DVモラハラの被害を受けている場合、加害者の言動やその影響を記録として残しておくことが非常に有効です。
加害者が被害者面をし、嘘や誤解を広めようとする場合に備え、被害者としての立場を明確にするためにも、言動がわかる形で証拠を蓄積しておく必要があります。
具体的には、加害者の発言や行動を日時とともに日記に記録したり、メールやチャットなどのやり取りを保存しておくとよいでしょう。
また、場合によっては音声記録や写真といった形式で証拠を集めることも役立ちます。こうした記録は、専門家の助言を得る際や法的な対応を行う際にも大変重要な資料となります。
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離婚を希望する場合は、「どちらが被害者か」に固執しない
DVモラハラで離婚協議や離婚調停になると、お互いが「自分がDVモラハラをされた」という主張をしている、というケースが多くあります。
あることないことをでっちあげ、被害者面をする加害者に対して怒りを覚える被害者の方も多くいらっしゃいますが、ここで「どちらが被害者か」を争うと、明確な証拠がない場合は協議や調停が長引くことになり、調停が不成立になり裁判に進んでしまえば、被害者の精神的負担や、金銭的負担も大きくなってしまいます。
もしお互いが離婚に同意している場合は、「どちらが被害者か」よりも「早期離婚」を最優先にし、淡々と養育費や財産分与などの条件の取り決めに進んでいくのも手です。
被害者がより早く、DVモラハラのない安心した環境で新しい生活をスタートさせることができます。
まとめ:ずるい顔に負けないために成長する

このコラムでは、加害者が被害者面する心理と対処法について解説しました。
加害者は、自己中心的な考えや思い込みの激しさ、自分の行動に対して責任を持つことへの恐れなどの理由から、自分が被害者だと思うことで自己を守ろうとします。
被害者は、そのような加害者の言動に振り回され、本来守られるべき被害者が、「加害者扱い」されることで孤立感や絶望感が増し、精神的に追い詰められるケースもあります。
モラハラによる被害を受けた人々は、自分だけで全てを解決しようとして精神的に疲弊してしまうことがあります。
そのため、信頼できる家族や友人、支援機関など、相談できる場所の存在が大切になってきます。
モラハラの影響下にいる被害者は、時として自分の直面している問題が過小評価されることがあります。
そんな時こそ、客観的な視点を持つ第三者の意見や、同じような問題を経験した人々の助けが、より良い方向へ導く鍵となります。
最終的に、被害者自身が自身の心のケアを最優先に考え、成長していくための環境を整えることが重要です。DVモラハラ加害者がなぜ「ずるい顔」を見せるのかを理解し、対処スキルを身につけることで、被害者は自分を守り、健全な人間関係を築く力を育てることができるのです。