「夫婦関係が破綻してたら不倫しても慰謝料請求されない?」婚姻関係の破綻と不貞行為について徹底解説!

監修者:弁護士 渡辺秀行 法律事務所リベロ(東京都足立区)所長弁護士

監修者:弁護士 渡辺秀行

 法律事務所リベロ(東京都足立区)
 所長弁護士

妻とはもう終わってるんだ。夫婦関係が破綻してる場合は慰謝料請求は無効になるし、心配いらないよ。

最近はネットで法律の情報を自分で調べられますから、

  • 「夫婦関係が破綻していれば不倫しても慰謝料請求は無効になる」
  • 不倫がバレたら夫婦関係が破綻していたと主張すれば良い」
  • 「相手には奥さんがいるけれど別居中だから不倫しても大丈夫」

等の情報を鵜呑みにして、不倫関係に陥ってしまう方も少なくありません。

確かに、夫婦関係が既に破綻していると認められる場合は、慰謝料請求は認められません。

しかし、「夫婦関係の破綻」が認められるには相当厳しい条件があり、それに当てはまらない場合、慰謝料請求が認められる可能性があります。

上記のような相手の言葉を信じて不倫関係に陥ってしまった結果、相手配偶者から慰謝料請求されてしまうという状況に陥ってしまう可能性があります。

また、「夫婦関係を最初に壊したのは相手だ」と主観的に思っていても、不貞行為をした結果、自分が有責配偶者だと認定されてしまうこともあるのです。

このコラムでは、夫婦関係の破綻と不倫、そして慰謝料請求の可否について詳しく解説します。具体的な判例についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

不倫で慰謝料請求できる理由

一般的には、既婚者が配偶者の他に男女関係を持つことを「不倫・浮気」と呼びますが、法律の中では、「不貞行為」と呼びます。

一夫一婦制のもと夫婦は相互に貞操義務を負っており、それに違反することは、夫婦間の信頼関係、協力関係を破壊し、婚姻の破綻に繋がると考えられ、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為」として、「不法行為」にあたるため、謝料請求権が発生します。

既に婚姻関係が破綻している場合は、不法行為として認められない

既に婚姻関係が破綻している場合、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないため、不倫したとしても不法行為として認められません。その結果、慰謝料請求権も発生しないということになります。

「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。」

最高裁判所平成8年3月26日判決

 

婚姻関係破綻の判断基準

婚姻の破綻を判断する基準は、裁判所が多角的に判断する要素が多くあります。一般的には以下の要素が重要とされています。

  • 夫婦間の交流の有無:夫婦や家族間の交流がどれくらい断たれているかが考慮されます。
  • 不和の度合い・不和が生じた期間:夫婦間の不和が長期間続いているかどうかが考慮されます。
  • 長期間の別居:別居が長期にわたる場合、婚姻関係が破綻していると見なされやすいです。
  • DVやモラハラを受けている:配偶者からのDVやモラハラが事実として認められる場合は、婚姻関係が破綻していると認められる可能性があります。
  • 離婚協議の有無:お互いに離婚の意思があり、離婚や離婚条件について双方で協議していたという事実があるかどうかが考慮されます。

以下、ポイントを詳しく解説してきます。

夫婦間の交流の有無

主観的に「自分たち夫婦は、婚姻関係は破綻している」と思っていても、それまでの夫婦間や家族の交流の実績から、夫婦関係が破綻した状態とはいえないと判断されることがあります。

また、家庭内別居をしていても、相手の分の家事をする、食事を作るなどの事実があれば、夫婦間の交流があったと見なされやすいです。

婚姻関係が破綻しているとは言えない要素

  • 同居している(東京地裁平成30年1月23日)
  • 食事を共にしている(東京地裁平成29年2月2日)
  • 親戚付き合いをしている(東京地裁平成29年3月16日)
  • 子供を連れて旅行に行った(東京地裁平成28年6月16日)
  • イベントに家族で参加した(東京地裁平成29年5月26日)
  • 性交渉がある(東京地裁平成28年2月16日)
  • 相手の服を洗濯する、相手の食事を用意するなどの家事をしていた(東京地裁平成29年9月26日)
  • 子の養育について相談している(東京地裁平成30年1月26日)

上記の事実が認められる場合、夫婦間が不仲であったとしても婚姻関係が破綻している状態とまでは言えないと判断される可能性が高まります。

不和の度合い・不和が生じた期間

夫婦関係が相当冷却しており、主観的には相当不仲だと感じられる場合でも、「婚姻関係が破綻しているとまでは言えない」と判断されることも多いです。

「婚姻関係が破綻している」とまでは言えないとした裁判例

  • 円満を欠いていた」が破綻はしていない
    • 寝室を別にし、肉体関係を持たなくなった(東京地裁平成19年10月17日)
    • 数回にわたって離婚を口にするほど喧嘩が絶えなかった(東京地裁平成22年8月25日)
  • 危うい状態(危機的状態)である」が破綻はしていない
    • 相手の子供らとの接し方や思いやり不足に不満を募らせ、夫婦関係が危殆に瀕していたが、相手の退職まではがまんしようとする決意があった(東京地裁平成22年12月14日)
    • 相手の借金問題や暴力のために夫婦関係がかなり危うい関係にあったが、同居生活は続いていた(東京地裁平成23年3月22日)
  • 形骸化していた」が破綻はしていない
    • 過去に夫の不倫が発覚してから、別々の部屋に就寝するなど、家庭内では精神的には形骸化した生活を続けており、夫が不貞行為について妻にきちんと詫び、これを妻が許すというけじめの機会はもたれていないが、その後も夫婦の肉体関係があったり、子どもを連れて家族旅行に一緒に出かける等があった(東京地裁平成19年3月30日)
  • 破綻寸前」だが「破綻」していない
    • 金銭面での意見の食い違いがあり、口論が絶えず、別居が続いており、破綻寸前の状態(東京地裁平成19年4月24日)

このような裁判例を見ると、夫婦関係が不仲というだけで「不貞行為時において婚姻関係が既に破綻していた」と認定することには、裁判所が消極的なことが分かります。

長期間の別居

夫婦関係が壊れて別居を開始し、長期間に及んでいる場合は婚姻関係の破綻が認められる可能性が高まります。

  • 別居の事実を考慮している裁判例
    • XとA(夫婦)が別居した後、Y(不倫相手)がAの自宅に宿泊したことは、婚姻関係の破綻後のことであると認められるから、不法行為を構成しないというべきである(東京地裁平成29年7月20日)

婚姻関係の破綻が認められる別居期間は、個々の事案での夫婦関係の実情によって判断されるため、明確な基準があるわけではありませんが、5年以上別居している場合、婚姻関係修復の見込みがないと判断される可能性が高まります。

しかし、別居が長期間に及ぶ場合でも、夫婦間の交流があったり、別居の理由が単身赴任や介護、夫婦の冷却期間として別居をしていて離婚前提という認識がなかった場合には、婚姻関係が破綻しているとはいえないと判断される可能性があるため、注意が必要です。

DVモラハラを受けている

DVやモラハラは、「婚姻を継続しがい重大な事由」として、婚姻関係破綻の原因となります。

しかし、不貞行為も有責行為です。双方に有責事由がある場合、婚姻関係破綻の原因となった責任の度合いで争うことになります。

不貞行為の証拠は「ホテルに出入りする写真」や、「肉体関係があったことが認められるメールやLINE」等、「不貞行為があった事実」が推認されるものであること、DVモラハラについては、「身体的暴力の証拠」や、それに伴う「医師の診断書」「LINEやメールのやりとり」等、「暴力やモラハラを受けていた事実」が立証できることが重要です。

  • 配偶者の暴力が原因で、不貞行為時には婚姻関係が既に破綻していたことが認められた裁判例
    • Xは婚姻期間中、Aに対し継続的に暴力を振るっており、遅くともAが不貞行為に及んだ時期までには婚姻関係は破綻していた(東京地裁平成29年3月10日)

有責配偶者になった場合、親権、慰謝料で不利になるばかりでなく、有責配偶者からの離婚請求は基本的に認められませんので、最悪の場合一定の期間離婚自体ができなくなる恐れもあります。離婚を希望している場合、有責行為に当てはまることは避けた方が良いでしょう。

離婚協議の有無

お互いが離婚に同意し、離婚に向けて実際に行動していることが認められる場合は、婚姻関係が破綻していると認められることがあります。しかし、口頭だけではなく、「離婚届を取りに役所に赴き相手に交付する」、「離婚協議中、調停中」といった具体的な行動が必要です。

ただし、離婚調停の申立は、相手に離婚の意思がなくとも一方に離婚の意思があれば申立ができるため、離婚調停の申立という事情のみで婚姻関係の破綻が認められることはありません。

  • 明確に離婚の意思があり、相手も離婚を受け入れていると認められる裁判例
    • Aは子どもを連れて実家に戻り、住民票の移動、学校の転校手続きを行う等、離婚の意思を明確にし、Xも離婚を受け入れるに至っていることからすれば、同時点で婚姻関係は破綻したと認められる(東京地裁平成29年3月14日)
  • 離婚調停の申立と婚姻関係破綻についての判示
    • 「離婚調停の申立をしたことは、夫婦の一方が離婚を望んでいることを意味するにすぎず、その時点で,離婚が成立するか否かは不明であり、婚姻関係が破綻しているとは限らない」(東京地裁平成24年7月24日)

まとめ

夫婦関係が悪化している状況での不倫と慰謝料について、いくつかの重要なポイントを再確認しましょう。

まず、婚姻関係が破綻していない限り、不倫は不貞行為と見なされ、慰謝料の請求が可能です。慰謝料の相場は場合によって異なりますが、一般的には数十万から300万円程度であり、離婚の有無や不貞行為の悪質性により変動します。

どんなに夫婦仲が悪化して、主観的には婚姻関係が破綻していると思っていても、不貞行為時に既に夫婦関係が破綻していると裁判所に認められるには厳しい条件があると考えておいた方が良いでしょう。

夫婦仲の悪化は、精神的にも負担が大きいものです。誰にも相談できず、精神的にも孤立してしまい、救いを求めて婚姻関係にない第三者と不貞関係を持ってしまうことは、事案としてはよくあるケースです。

夫婦関係が悪化して不倫の問題が発生した場合、適切な対策を講じるためには弁護士への相談が重要です。早めに相談することで、紛争がこれ以上激化しないための対策や、不利な状況にならないための行動について的確なアドバイスを受けることができます。

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所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約17年にわたり、「DV・モラハラ事件」に積極的に携わっており、「離婚」等の家事事件を得意分野としている。極真空手歴約20年。
悩んでいる被害者の方に「自分の人生を生きてほしい」という思いから、DVモラハラ加害者との対峙にも決して怯まない「知識・経験」と「武道の精神」で依頼者を全力でサポートすることを心がけています。離婚・DV・モラハラでお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

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