【2026年4月開始】共同親権を考える前に知っておきたい「親権」の定義と親権者を決める際の判断基準

離婚後の父母双方に親権を認める「共同親権」の導入を柱とする改正民法が成立し、2026年度までに施行されます。
施行後は、すでに単独親権で離婚している父母も、家庭裁判所に申立てをして、裁判所が相当と判断した場合に限り共同親権へ変更できるようになります。
※共同親権の制度そのものの説明は、こちらの記事で詳しくまとめています。
DV・モラハラ・離婚で弁護士をお探…


【共同親権】ついに共同親権が実現する?共同親権の法案をわかりやすく解説ー親権・監護権編ー | DV・モラ…
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このコラムでは、共同親権を考えるうえでまず押さえておきたい「親権とは何か」「離婚後の親権者はどう決まるのか」という基礎部分を整理します。
共同親権の導入後も、この“判断の基本軸”は従来と変わりません。
目次
親権とは?

親権とは、未成年の子どもを適切に育て守るための権利と義務をセットにしたものです。
大きく分けると、次の3つで構成されます。
⑴ 身上監護権
身上監護権とは、「子どもを育てるうえで必要なことを決めるための権利と責任」のことです。
毎日の生活、学校のこと、どこで暮らすかといった“日常の子育てそのもの”が、この身上監護権に含まれます。
法律では、次の3つが定められています。
- 監護教育権(民法820条)
食事・健康管理・学校選び・しつけなど、子どもの生活や教育に関することを決める権利です。 - 居所指定権(民法822条)
子どもが「どこに住むか」を決める権利です。引っ越しや転校にも関わります。 - 職業許可権(民法823条)
子どもがアルバイトなどの仕事をするときに、許可を出す権利です。
⑵財産管理権
子どもの財産をきちんと管理し、必要な契約や手続きを親が代わりに行う権利と義務です(民法824条)。
⑶ 法定代理人としての権利・義務
未成年の子に代わって契約を結んだり、親の同意なく子がしてしまった契約を取り消したりできる権利と義務です(民法5条2項)。
離婚後の親権者はどのように決まる?

協議離婚の場合
現行法では、父母が話し合いをして、どちらか一方を親権者として決めます。
実際には、子どもと同居して育てている親が親権者になるのが一般的です。
また、親権者を決めない限り、離婚届は提出できません。
ただし、2026年4月の改正民法施行後は、親権者指定調停又は審判を申し立てていれば、「親権の結論がまだ」でも離婚だけ先に成立させることが可能になります。
調停・裁判の場合
現行法では、家庭裁判所が親権者を判断する場合、「子の利益」に沿っているかを根底に、様々な判断基準を総合してどちらか一方を親権者に指定します。
共同親権の導入
2026年4月の改正民法施行後、協議離婚の場合に限り、父母は次の3つの中から親権の形を選べるようになります。
- 父(単独親権)
- 母(単独親権)
- 父と母(共同親権)
協議で親権について争いがある場合は、調停や審判に進むことになります。
調停や審判では、父母が選ぶのではなく、家庭裁判所が『単独親権』か『共同親権』のどちらが子の利益にかなうかを判断します。
裁判所が親権を決める際の判断基準について

①主たる監護者は誰か
「主たる監護者」とは、これまで子どもの養育を中心的に担ってきた親のことをいいます。
出生から現在までの子育ての関わり方を総合的に見て、主たる監護者と子どもの間に形成された心理的な絆は、離婚後も維持されることが子の福祉にかなうと判断されやすいです。
調停や裁判では、次のような点が重視されます。
主たる監護者を判断する際に見られるポイント
- 日常的な世話(食事・入浴・送り迎えなど)を誰が担ってきたか
- 保育園・学校・病院などの対応を、主に誰が行ってきたか
- 子どもとの生活リズム・接し方がどのように安定しているか
- 生活環境(住居・サポート体制など)は整っているか
また、調停や裁判では、これらを裏付けるために次のような資料を提出します。
提出する書面の例
- これまでの子育て状況や現在の生活環境、今後の養育方針をまとめた「陳述書」
- 保育園・学校・通院状況の資料
- 家族や支援者の協力体制を示す資料
親権は母親が有利?
「親権は母親が有利」と言われることがあります。
「母性優先の原則」という考え方です。
それは日本の現状では、特に乳幼児期は主たる監護者が母親であり、子どもとの心理的身体的結びつきが母親の方が強い場合が殆どだからです。
2022年の統計では、離婚後に母親が親権を取ったケースは88%、父親は12%でした。
一方、父親が主たる監護者としての役割を果たしており、今後の監護体制も十分だと認められれば、父親が親権を取るケースもあります。
実際私が、東京家庭裁判所で行った離婚裁判でも、父親が子ども3人の親権者に指定されたことがあります。
②監護の継続性の維持
子どもの生活環境が変わると、不安や混乱を招くおそれがあるため、従来は現状維持が望ましいと考えられていました。
しかし、この考え方では、「正当な理由なく違法に子どもを連れ去った先でも、そこで監護が続けば監護者と認められる」という問題があり、子の奪い合いを助長しかねません。
現在は判断がより精緻になっています。
- 幼い子ども:主たる監護者との精神的つながりの継続が重視されます。
- 就学後:住居・学校・友人関係など、現状の生活環境の安定性が重視されます。。
③子の意思の尊重
子どもが成長するほど、どちらの親と暮らしたいかという意思が親権判断で重要視されます。
- 15歳以上の子ども:家庭裁判所は必ず子どもの陳述を聞くことが法律で定められています。
- おおむね10歳前後以上の子ども:意思が尊重される傾向があります。
意思の確認方法としては、家庭裁判所の調査官による面談のほか、心理テストや生活環境の調査などを総合的に行って判断されます。
④きょうだい不分離
きょうだいがいる場合、一般的にはきょうだいの絆を守るため、分離しないことが望ましいとされています。
ただし、
- 長期間別々に生活していて安定している場合
- 子どもの意思を尊重する必要がある場合
には、きょうだいを分離することも認められるケースがあります。
実際私が担当した事件でも、何度かきょうだいが分離された事例があります。
監護権を争うケース

子連れ別居の監護者指定
離婚前に、相手の承諾なく子どもを連れて別居した場合、離婚成立までの間、どちらが子どもを監護するかで争いになることがあります。非監護親から「監護者指定・子の引き渡し審判」の申し立てがあった場合、家庭裁判所がどちらを監護者とするか判断し、必要に応じて子どもの引き渡しを命じることがあります。
現行法では、監護権の判断基準は親権とほぼ同じで、監護権の争いは親権争いの前哨戦と考えられます。
実際、監護者として指定された場合、親権者の指定も同じ結論になることが多いです。
共同親権下の監護者指定
2026年4月の改正民法施行後、離婚の際に共同親権を選択した場合でも、父母どちらが監護者になるかで争う場合は、家庭裁判所が監護者を判断します。
監護者と親権者を分けることはできる?

一般的に、親権と監護権を分けることは好ましくないとされています。
離婚後に父母が子どもに関して円滑に協力できることは期待しにくく、親権者の協力が得られないことで、子どもの生活に関わる重要な場面で支障が生じる可能性があるためです。
現行法では、父母の話し合いが成立せず、裁判所が審判や裁判で親権者を判断する場合、親権者と監護者を分けることは例外的です。
令和5年度の司法統計では、親権者と監護者が分けられたケースは父親が親権者の場合で3%、母親が親権者の場合では0.2%でした。
2026年4月の民法改正により共同親権が導入された後は、協議や調停の際に子どもの監護の分掌(役割分担)を取り決めることができるようになり、父母双方がより柔軟に養育に関わることが可能になります。
親権・監護権についてのよくある質問

- 親権を判断する際に収入は関係ありますか?専業主婦(主夫)だと離婚しても親権を取れないのでしょうか?
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親権の判断では収入はあまり重視されません。
離婚の話し合いの際、特に相手がモラハラ加害者の場合、「経済力もないお前が親権を取れるはずがないだろう」「働いてないくせに子どもを育てられると思うな」等の脅しを受け、「専業主婦(主夫)だと親権は取れないから離婚はあきらめなくてはいけないんだ・・・」と思ってしまう方がいます。
しかし、上記のように裁判所が親権者を判断するにあたっては、これまでの監護実績や子どもとの結びつきが重要視され、経済力にはそれほど重きをおいていません。
これは、現在収入がない場合でも、離婚後、養育費や公的支援を活用することで安定した養育状況を整えることができると考えられているためです。
- DV・モラハラ・不貞など、相手に問題があった場合は親権はこちらが有利になりますか?
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夫婦関係と親子関係は別のものとして判断されます。
DV・モラハラ・不貞行為など、婚姻関係を破綻させて配偶者のことを有責配偶者といいます。親権者を定める時は、有責配偶者だからといって親権者としてふさわしくないと判断されるわけではありません。
裁判所が親権者を定める際には、「子の利益」を重要視するため、親権を判断する場合はその行為が子どもにどのような影響を与えたかという観点から判断されます。
例えば、不貞の場合、子どもを置き去りにして不貞相手と会う、不貞相手との時間を優先して子どもの育児を放棄していた等、不貞が原因で子どもの養育が疎かになっている場合は監護状況に問題があると認められるケースがあります。
DV・モラハラの場合、直接子どもを虐待している、面前DVがある場合は、子の利益の観点から問題視されます。
- 離婚する際、親権者は相手にして離婚届を提出しましたが、後から親権者を自分に変更することはできますか?
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離婚届を提出してしまったら、たとえお互い合意の上でも家庭裁判所の手続きが必要になりますので、簡単に親権変更はできません。親権者を変更したい場合は、家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てる必要があります。話し合いの上、調査官調査が行われ、親権者変更が相当だと認められれば調停が成立します。話し合いで合意されない場合は、審判となり、裁判所が親権者の変更を認めるか判断することになります。
このように、親権者変更は手続きも容易ではないので、協議離婚の際の親権については慎重に考えた方がよいといえます。
DV・モラハラ事件では、被害者が子どもを連れて避難した際、加害者が勝手に親権者を自分にして離婚届を提出するケースもあるので、役所に「離婚届不受理」を申し出ることによって防止することも必要となってきます。
なお、共同親権導入を含む改正民法が施行(2026年度までにされる予定)されると、親権者変更の申立てには、共同親権への変更も含まれるようになります。




