【親権】離婚後の親権・監護権は父親か母親どっち?決め方は?分けることはできる?

監修者:弁護士 渡辺秀行 法律事務所リベロ(東京都足立区)所長弁護士

監修者:弁護士 渡辺秀行

 法律事務所リベロ(東京都足立区)
 所長弁護士

離婚後の父母双方に親権を認める「共同親権」の導入を柱とする改正民法などが国会で成立し、2026年度までに施行されることとなりました。
改正民法が施行されれば、既に離婚して単独親権になっている場合でも、家庭裁判所に申し立てて認められれば、共同親権に変更できるようになります。

共同親権を含む民法の改正案についてはこちらの記事で詳しく説明しています。

このコラムでは、そもそも親権とは何か?離婚後の親権はどのように決まるのか?について解説します。

目次

親権とは?

親権には、⑴子の「身上監護権」およびその義務、⑵子の「財産管理権」およびその義務、⑶子に代わって法律行為を行う権利およびその義務の3つに大きく分けられます。

⑴ 子の「身上監護権」およびその義務

「身上監護権」は、子どもの世話をし、教育をして一人前に成熟した大人に育てていく養育監護の権利と義務のことです。

また、身上監護権は具体的に3つの権利が民法で定められています。

  • 監護教育権:「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」(民法820条)
  • 居所指定権:「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。」(民法822条)
  • 職業許可権:「子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。」(民法823条1項)

懲戒権の削除(2022年)
2022年の民法改正案で、親権者による懲戒権の規定が削除されました。つまり、親権者には子どもを懲戒(不正・不当な行為に対して制裁を与えること。)する権利を持っていないこととされました。

監護教育権については、「子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」という条項が付け加えられました。(民法821条)

⑵ 子の「財産管理権」およびその義務

「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。」(民法824条)

⑶ 子に代わって法律行為を行う「法定代理人」としての権利およびその義務

未成年の子がなんらかの契約等(高校の在学契約等)をする必要がある場合、子に代わって契約を行うことができる(法定代理人)。また、成年者が法定代理人の同意を得ずに契約をした場合、契約を取り消すことが出来る(民法5条2項)。

離婚後の親権者はどのように決まる?

協議離婚の場合

父母が話し合いでどちらかを親権者とします。通常、子どもと同居して養育する監護親が親権者になります。親権者を定めない限り離婚届を提出することはできないので、親権について争いがある場合には、離婚の同意はあったとしても協議離婚が成立せず、調停へと進むことになります。

調停・裁判の場合

家庭裁判所が親権者を判断する場合、「子の利益」に沿っているかを根底に、以下の判断基準を元に父母のどちらか親権者にふさわしいか判断します。

裁判所が親権を決める際の判断基準について

①主たる監護者は誰か

子どもが出生してから親権者の判断時点までの総合評価で、子どもの監護養育(子育て)を主に担ってきたと言える親を「主たる監護者」と呼びます。主たる監護者と子との間に形成された愛着関係や心理的絆は、離婚後も維持された方が子の福祉に沿うものと判断されることが多いです。

調停や裁判の際には、自分が今までどのくらい子育てに関わっており、現在の状況や、子育てをサポートしてくれる人はいるか、今後どのように養育体制を整えていくか等、陳述書という形で裁判所に提出します。

子の監護状況に関する陳述書の記載例(裁判所より引用)

親権は母親が有利?

「親権は母親が有利」と言われることがあります。「母性優先の原則」という考え方です。それは日本の現状では、特に乳幼児期は主たる監護者が母親であり、子どもとの心理的身体的結びつきが母親の方が強い場合が殆どだからです。2022年の統計では、離婚後に母親が親権を取ったケースは88%、父親は12%でした。

一方、父親が主たる監護者としての役割を果たしており、今後の監護体制も十分だと認められれば、父親が親権を取るケースもあります。実際私が,東京家庭裁判所で行った離婚裁判でも,父親が子ども3人の親権者に指定されたことがあります。

②監護の継続性の維持

子どもの生活環境が変わることは、子どもに不安や混乱を招いてしまうので、現状の生活状況が安定している場合は、現状維持が子の利益の観点から望ましいという考え方です。

すでに夫婦が別居しており、子どもが別居後の新しい環境に順応している場合、特段の事情が無い限りは現在の監護者がそのまま親権者・監護者としたほうが子の利益にかなうと考慮されます。

しかし、現状の監護が違法に開始された場合はその後の監護実績を重視すべきでないと判断されることがあります。
また、主たる監護者であった母親が追い出される形で単身で出て行き、父親が監護していたが、その後の監護状況の悪化や、母との情緒的な結びつきの強さから母親が監護者と認められた事例もあります。特に乳幼児期では、主たる監護者との安定した結びつきを回復させることが監護の継続性の維持よりも優先されるべきと判断される場合があります。

③子の意思の尊重

子どもの年齢が高いほど、どちらの親と暮らしたいかという子どもの意思が親権者の判断において重要視されます。子どもが15歳以上の場合、家庭裁判所が親権者を判断する際には子の陳述を聞かなければならないと法律で定められています。

実際には、おおむね10歳前後以上の子どもであれば子どもの意思が重視される傾向にあります。子どもの意向を確認する際には、家庭裁判所の調査官が子どもから話を聞くほか、心理テストや子の生活環境の調査等から総合的に判断されます。

④きょうだい不分離

きょうだいがいる事案では、一般的にきょうだい間の絆を損なわないよう、きょうだいを分離しないことが子の利益にかなうと考えられています。
しかし、長年きょうだいが別々に生活しており、その生活が安定している場合や、子どもの意思を尊重する場合は、きょうだいを分離することが認められるケースがあります。

実際私が行った事件でも,何度か,きょうだいが分離されたことがあります。

監護権を争うケース

離婚前に相手の承諾なく子どもを連れて別居した場合、離婚が成立するまでの間、父母のどちらが子どもを監護するか(育てるか)で争いになるケースがあります。非監護親から「監護者指定・子の引き渡し審判」の申立がされた場合、家庭裁判所が父母のどちらかを監護者に指定し、場合によっては引き渡しを命ずることがあります。

監護権の判断基準は親権と共通しており、監護権の争いは親権の前哨戦と位置づけられます。監護者として指定された場合、親権者の指定も同じ結論になることが多いです。

監護者と親権者を分けることはできる?

一般的に、親権と監護権を分けることは好ましくないと言われています。離婚に至った夫婦が子に関して円滑に協力できることは期待しがたく、親権者の協力が得られないことにより、子の生活に関わる重要な場面で大きな支障が生ずる可能性があるからです。

共同親権導入を含む民法改正案が2024年5月に成立し2026年度までに施行予定ですが、協議離婚した父母で、離婚後も協力関係を築くことができる場合はお互いの同意の上で共同親権のもと、共同監護を行うことが可能な家庭もあります。

しかし、現状では、審判や訴訟など、父母の話し合いが成立せず、裁判所が強制的な判断を下す手続きの場合には、監護者と親権者の分離は例外的なケースであるというのが実情です。令和5年度の司法統計では、親権者と監護者が分けられたケースは父親が親権者の場合で3%、母親が親権者の場合では0.2%でした。

親権・監護権についてのよくある質問

親権を判断する際に収入は関係ありますか?専業主婦(主夫)だと離婚しても親権を取れないのでしょうか?

親権の判断では収入はあまり重視されません。

離婚の話し合いの際、特に相手がモラハラ加害者の場合、「経済力もないお前が親権を取れるはずがないだろう」「働いてないくせに子どもを育てられると思うな」等の脅しを受け、「専業主婦(主夫)だと親権は取れないから離婚はあきらめなくてはいけないんだ・・・」と思ってしまう方がいます。

しかし、上記のように裁判所が親権者を判断するにあたっては、これまでの監護実績や子どもとの結びつきが重要視され、経済力にはそれほど重きをおいていません。

これは、現在収入がない場合でも、離婚後、養育費や公的支援を活用することで安定した養育状況を整えることができると考えられているためです。

DV・モラハラ・不貞など、相手に問題があった場合は親権はこちらが有利になりますか?

夫婦関係と親子関係は別のものとして判断されます。

DV・モラハラ・不貞行為など、婚姻関係を破綻させて配偶者のことを有責配偶者といいます。親権者を定める時は、有責配偶者だからといって親権者としてふさわしくないと判断されるわけではありません。

裁判所が親権者を定める際には、「子の利益」を重要視するため、親権を判断する場合はその行為が子どもにどのような影響を与えたかという観点から判断されます。

例えば、不貞の場合、子どもを置き去りにして不貞相手と会う、不貞相手との時間を優先して子どもの育児を放棄していた等、不貞が原因で子どもの養育が疎かになっている場合は監護状況に問題があると認められるケースがあります。

DV・モラハラの場合、直接子どもを虐待している、面前DVがある場合は、子の利益の観点から問題視されます。

離婚する際、親権者は相手にして離婚届を提出しましたが、後から親権者を自分に変更することはできますか?

離婚届を提出してしまったら、たとえお互い合意の上でも家庭裁判所の手続きが必要になりますので、簡単に親権変更はできません。親権者を変更したい場合は、家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てる必要があります。話し合いの上、調査官調査が行われ、親権者変更が相当だと認められれば調停が成立します。話し合いで合意されない場合は、審判となり、裁判所が親権者の変更を認めるか判断することになります。

このように、親権者変更は手続きも容易ではないので、協議離婚の際の親権については慎重に考えた方がよいといえます。

DV・モラハラ事件では、被害者が子どもを連れて避難した際、加害者が勝手に親権者を自分にして離婚届を提出するケースもあるので、役所に「離婚届不受理」を申し出ることによって防止することも必要となってきます。

なお、共同親権導入を含む改正民法が施行(2026年度までにされる予定)されると、親権者変更の申立てには、共同親権への変更も含まれるようになります。

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所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約17年にわたり、「DV・モラハラ事件」に積極的に携わっており、「離婚」等の家事事件を得意分野としている。極真空手歴約20年。
悩んでいる被害者の方に「自分の人生を生きてほしい」という思いから、DVモラハラ加害者との対峙にも決して怯まない「知識・経験」と「武道の精神」で依頼者を全力でサポートすることを心がけています。離婚・DV・モラハラでお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

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