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【モラハラ】モラハラ加害者にも被害者にもなりえる? 境界性パーソナリティ障害について解説
以前モラハラの原因の1つにモラハラ加害者が自己愛性パーソナリティ障害をもっている可能性があるということをコラムに掲載しました。
実は自己愛性パーソナリティ障害(NPD)以外にもモラハラの原因となるパーソナリティ障害が存在します。
境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)
対人関係における不安定性,衝動性,依存,自傷行為等が見られるパーソナリティ障害を指します。
神経症と統合失調症という2つの精神疾患の境界にある症状と考えられていたことから“境界性(ボーダー)”と呼ばれています。
境界性パーソナリティ障害は,生まれながらの性格が由来していることもありますが、幼少期の親子関係が原因となっている可能性もあります。
精神疾患基準であるDSM-5においては,自己愛性パーソナリティ障害同様のパーソナリティ障害B群に該当します。
今回は境界性パーソナリティ障害とモラハラの関係性に焦点を当てて解説してまいりたいと思います。
境界性パーソナリティ障害はどんな人にあてはまる?
では境界性パーソナリティ障害はどのような人に当てはまるのでしょうか?
境界性パーソナリティ障害の特徴と具体例をまとめました。
情緒不安定性
境界性パーソナリティ障害の特徴として情緒不安定性が挙げられます。自身で感情をコントロールすることが難しいために、自分は不安や怒りを感じやすかったり、パートナーを振り回してしまうことが多いです。
具体的には以下の通りです。
- パートナーから見捨てられることを避けるためになりふりかまわず行動する。(見捨てられ不安)
- 気分の変化が激しく,ストレスに対し極端に反応する。
- 自分が生きていることに対し空虚感を常に感じている。
- 怒りの感情をコントロールできず癇癪を起こす。
衝動的な危険行為
パートナーあるいは周囲の興味を引きたいいがために衝動的に危険な行動を起こすことがあります。
浪費・過食・過剰飲酒・薬物乱用・危険な性行為・万引き等が衝動的な危険行為の例として挙げられます。
またこれらの行動に依存することもあります。
不安定な対人関係
自分のパートナーになる可能性の人を見つけると、「この人は私の欲求を叶えてくれる!」と思い込み理想化します。
しかし交際を続けていく中で、相手が自分の期待している行動をとらない或いは気に入らない部分が出てくると、「思った通りの行動をしない!裏切られた!」と相手に失望し、相手を否定したり、突然関係を断ち切ってしまうことがあります。(=脱価値化)
このような行動を繰り返すために、境界性パーソナリティ障害の人は他者との安定的な対人関係を築くことが困難となっていきます。
認知の歪み
認知の歪みとは、物事を大げさに捉えてしまったり、ネガティブに考えてしまう等 偏った解釈をしてしまうことをいいます。
認知の歪みにはいくつかのパターンがありますが今回はその中の一部をご紹介します。
- 全か無か思想
→物事を白か黒でしか判断できず、たとえ少しの失敗であってもその失敗を許せなかったりします。
この思想は境界性パーソナリティ障害によく見られます。 - マイナス化思想
→良い事象であるにもかかわらず、悪い風に捉えてしまう思想です。
良いことがあったとしても「まぐれだ。たまたまできただけ。」と考えてしまうのです。 - 感情の理由づけ
→感情を根拠とし、自分の考えが正しいと結論付けてしまう思想です。
例えば、日常生活においてパートナーから些細なことを指摘されると
「注意されてしまい悲しい。あの人は私を非難する悪い人だ。」
という風に解釈してしまいます。 - ~すべき思考
→~すべきだという考え方にとらわれる思想です。
この思想は自分だけでなく他者に対しても~すべきと要求してしまうためとても厄介です。 - レッテル貼り
→レッテル貼りとは,見た目や行動だけで人を判断し,否定的な考えに至ってしまう思想です。
偏見を持つきっかけとなるため人間関係を構築する上で大きな妨げとなってしまいます。 - その他
→心のフィルター,行き過ぎた一般化,論理の飛躍,拡大・過小解釈,個人化など
認知の歪みには多くの思考パターンが存在します。
自己愛性パーソナリティ障害との違いは?
境界性パーソナリティ障害の特徴を見ていると,自己愛性パーソナリティ障害に似ている面もあります。
似ている部分
- 発達障害を併発している可能性がある。
- 相手が思うように行動しないと怒り,非難をする。
- 親しい関係にある人間に対してのみ,怒りや不安定な感情を出す。
- 自己肯定感が低い。
異なる部分
- 自己愛性パーソナリティ障害は男性に多い傾向があるが,境界性パーソナリティ障害は女性に多く見られ、患者の約75%が女性というデータも存在している。
- 「見捨てられ不安」が強く,相手の気を引くためであれば自傷行為等みずからを傷つける行動をする。
境界性パーソナリティ障害とモラハラの関係性は?
境界性パーソナリティ障害とモラハラの関係性について考えていきましょう。
実はこのパーソナリティ障害はモラハラ加害者だけでなくモラハラ被害者にも見られる傾向があります。
モラハラ加害者が境界性パーソナリティ障害の場合
モラハラ加害者が境界性パーソナリティ障害である場合,例えば癇癪を起こした際に
相手に暴言を吐く,物にあたる等モラハラの典型的な行動が見られます。
また“試し行為”や認知の歪みからくるマイナス思想により,パートナーを精神的に疲弊させることもあります。
モラハラ被害者が境界性パーソナリティ障害の場合
境界性パーソナリティ障害をもつ人は,モラハラ加害者に多いとされる“自己愛性パーソナリティ障害”をもつ人に惹かれやすい傾向にあります。
理想化
自己愛性パーソナリティ障害の人はターゲットを見つけると,自分の支配下に置きたいがために,最初は優しいいい人のように振る舞います。
そしてそのターゲットとなる人が境界性パーソナリティ障害である場合,
「こんな私にも優しくしてくれて,好きになってくれる人がいるのだ・・・!」と好意を持ち,自分の中で相手を理想化し依存的になっていきます。
初めは互いに悪い面は出さないため,端からみれば良好な関係に見えますが,次第に歪な人間関係を構築していくことになるのです。
脱価値化するも・・・
自己愛性パーソナリティ障害も境界性パーソナリティ障害も,理想化のあとには脱価値化の段階があります。
一般的に関係が長く続けば,互いの意見の食い違いが増えたり,相手が思うように行動してくれないことは多々あるでしょう。
しかし,上記のパーソナリティ障害をもつ人は,自分の思い通りに行動しない,期待した意見を提示されなければ,自分の中で相手の価値が極端に下がってしまい,非難しあうようになります。
しかし,境界性パーソナリティ障害の場合非難した(或いは非難された)にもかかわらず,相手が自分の下から離れていくことに強く不安を感じてしまうため,相手の気を引く発言や縋るような行動を取ります。こうしてお互い別れることが出来ない共依存の関係になります。
そのため,パートナーからモラハラを受けていても離れられない悪循環に陥るのです。
境界性パーソナリティ障害のパートナーとの離婚は難しい?
境界性パーソナリティ障害(BPD)を持つパートナーとの離婚は、多くの問題点とトラブルが考えられます。
この障害は不安定な対人関係を特徴としており、結婚生活においては、パートナーに対する極端な理想化と評価の低下が繰り返されます。そのため日によって考え方が変わることやコミュニケーションにおいて誤解を生むことが多いです。
さらに、境界性パーソナリティ障害を持つパートナーは衝動的な行動を取りやすいため自傷行為や暴力など安全な生活が脅かされる恐れもあります。このような特徴があるため、離婚に至る過程でも激しい紛争やトラブルが起こる可能性が高まります。
境界性パーソナリティ障害のパートナーとの離婚を決意した場合には,その特性を理解したうえで、弁護士やカウンセラーに相談し、適切なアドバイスを得て臨むとよいでしょう。
また離婚協議をする場合には第三者を交えて協議し、感情的な対立を避けることも重要です。
まとめ
境界性パーソナリティ障害は,その感情の不安定さからパートナーや家族を精神的に疲弊させます。
その一方でパーソナリティ障害をもつ本人は,傷つきやすかったり偏った考え方のせいで生きづらさを感じています。
本人にとってもそのパートナーや家族にとっても苦しさを感じてしまうパーソナリティ障害なのです。
また,夫婦喧嘩の増加など,境界性パーソナリティ障害は夫婦の不和を助長するきっかけとなることもあります。
先述した特徴から,自分またはパートナーが境界性パーソナリティ障害では・・・?と感じたら,一度専門家にご相談されることをおすすめします。
カウンセリングや行動療法による治療により,自分やその周囲の人間について考えるきっかけとなったり,症状が改善されるかもしれません。