離婚したら将来の退職金も財産分与の対象になるって本当?計算方法と注意点を解説

「退職金も分けるの?」と思った方へ
離婚に際して、「退職金も財産分与の対象になる」と聞いて驚かれる方は少なくありません。
「まだもらっていないお金なのに?」「会社のお金じゃないの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
しかし実際には、退職金も一定の条件を満たせば財産分与の対象になります。
このコラムでは、退職金が分与の対象になるかどうかの判断基準や、具体的な計算方法、注意点について詳しく解説します。
目次
退職金は財産分与の対象になる?

退職金は共有財産になるの?
離婚時の財産分与では、「夫婦が婚姻中に協力して築いた財産(共有財産)」を対象とします。
これには預貯金や不動産だけでなく、将来受け取る予定の退職金も含まれる場合があります。
退職金が分与対象となるかどうかは、以下の点が重要です。
退職金が財産分与の対象になるかどうかの判断基準
- すでに退職しており、退職金の支給が確定している場合
→ 原則として財産分与の対象になります。 - 退職が近く、支給が現実的に見込まれている場合(数年以内など)
→ 裁判所でも分与対象とされる傾向にあります。 - 退職がかなり先で、支給が不確定な場合(例:30代の公務員など)
→10年以上支給が先の場合でも、分与対象とされる可能性があります。不確定要素が多い場合もあるので、個別の事案によって裁判所が判断することになります。
ポイントは、「退職金の支給が現実的に見込まれるかどうか」です。
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退職金の計算方法はどうなる?【ケース別に解説】

婚姻期間中に対応する部分だけが財産分与の対象
退職金全体が財産分与の対象になるわけではありません。
実務上は、婚姻期間中に形成された部分だけが対象になります。
退職金が財産分与の対象になるとされた場合、実際にどのように金額を計算するのかが気になりますよね。
代表的な考え方として、以下のような計算式が参考になります。
分与額 = 退職金額 ×(婚姻期間 ÷ 勤続年数)× 寄与度(原則1/2)
これはあくまで一例であり、家庭裁判所などで用いられる実務的な目安です。
ここでは、退職金の金額が「確定している場合」と「まだ確定していない場合」に分けて説明します。
①退職金がすでに支給されている(退職済み)場合
この場合は、実際に支払われた退職金の額をベースに分与額を算出します。
下記の例で考えてみます。
- 退職金額:2,000万円
- 勤続年数:40年
- 婚姻期間:20年
- 寄与度:1/2(夫婦の共同貢献とみなす)
分与額 = 退職金額 ×(婚姻期間 ÷ 勤続年数)× 寄与度(原則1/2)
→2,000万円 ×(20年 ÷ 40年)× 1/2 = 500万円
つまり、財産分与として500万円が妻(または夫)に支払われることになります。
②退職前で退職金の金額が確定していない場合
退職前でまだ退職金が支給されていない場合でも、見込み退職金額をもとに財産分与の話し合いが行われることがあります。
このときは、将来の退職金を「どうやって金額に換算するか」によって、支払方法や金額が変わってきます。
分与方法には大きく分けて2つのパターンがあります
- 離婚時に一括で支払う方法(見込み金額をもとに算出)
- 将来退職金が支給された時点で分与する方法(調停や公正証書で取り決め)
どちらを選ぶかは、当事者の合意や調停、裁判所の判断によって決まります。
離婚時に一括で支払う場合の計算方法
自己都合退職の金額ベースで評価する方法
将来の退職時期や退職金額が不確定な場合、「別居時に自己都合で退職したと仮定した場合の退職金額」を基準に評価することがあります。
自己都合退職金は定年退職よりも少ない傾向がありますが、将来の見込み額を使うよりリスクが少なく、現実的な金額として扱われるため、裁判所でこの方法が選ばれるケースもあります。
見込み退職金額から算出する方法
退職までにまだ年数がある場合、将来もらう退職金の全額をそのまま今の価値として評価するのは不公平になることがあります。
なぜなら、将来の退職金は「これから何年も働いた後にもらうお金」であり、もしそのお金を今すぐ一括で受け取るとしたら、将来分のお金には利息分が含まれていることになるからです。
そこで、離婚時に一括で支払うときには、計算した分与額から「利息分」を差し引いて、今の価値に直す必要があります。
この「将来もらうはずのお金から利息分を差し引く」ことを、中間利息の控除と呼びます。
ですので、退職金の支給時に支払うよりも金額は低くなります。
熟年離婚と退職金分与の関係

熟年離婚では退職金が重要な財産に
熟年離婚では、夫(または妻)がすでに退職していたり、近いうちに退職を予定しているケースが多く、退職金が夫婦の中で最も大きな資産となることも少なくありません。
そのため、退職金の分与が生活設計に大きく影響します。受け取り済みか、これから受け取る予定かによって取り扱いも変わるため、話し合いや手続きには注意が必要です。早めに専門家へ相談するのがおすすめです。
「自分の働いたお金だ!」と一方的に退職金を使用された場合の取扱い
退職金をすでに受け取っていても、「これは自分が働いて得た固有の財産だ」として、一方的に使い込まれてしまうことがあります。
財産分与の基準時は通常「別居開始時」とされているため、別居時点で退職金が手元に残っていなければ、原則として財産分与の対象とはならないことが多いです。
しかし、離婚を見越して財産分与の対象となる財産を隠したり、意図的に使い切るなどの「財産隠し」があった場合は、隠された財産の開示請求や、使い込まれた金額も財産分与の対象に含めるなどの対応がなされます。
そのため、退職金の使い道や通帳の明細など、お金の動きを証明できる資料や証拠を用意することが重要です。
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財産分与における注意点

退職金の分与は、金額や時期が不確定だったり、相手が情報を開示しないこともあるため、離婚協議や調停の場でトラブルになりやすい項目です。以下のような点に特に注意が必要です。
よくある注意点
- 相手が退職金について情報を開示しない
→退職金の支給予定額や支給時期などを相手が開示しないケースがあります。
正確な情報がわからないと適切な分与もできないため、弁護士を通じて開示請求を行うなどの対処が必要です。 - 相手が退職金の分与を認めない
→「退職金は自分のものだ」「まだもらっていないから関係ない」などとして、財産分与の対象であること自体を否定されることもあります。
しかし、婚姻中に形成された退職金相当部分は共有財産と評価される可能性があるため、主張を整理して適切に対応する必要があります。 - 将来の退職金の評価・計算が複雑
→退職前で金額が確定していない場合、見込み額からの評価が必要です。
現在価値に割り引いて算出する「中間利息控除」や、自己都合退職時の支給額を参考にするなど、計算方法も複雑になりがちです。専門的な判断が求められるため、早めの相談が重要です。
まとめ|退職金の取り扱いに迷ったら専門家にご相談を
退職金は財産分与の中でも判断が難しく、個別の事情によって結果が大きく変わる要素です。
- 退職金が財産分与の対象になるか
- 婚姻期間に応じた取り分はいくらか
- 見込み額をどう評価すべきか
これらを正確に判断し、公正な分与を進めるためには、法律の専門知識と実務経験が欠かせません。
退職金の取り扱いでお悩みの際は、まずは専門家に相談することをおすすめします。