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しつけと虐待の違いは?体罰や虐待が子どもの脳に与える影響について徹底解説!
配偶者からのDV・モラハラ被害に遭っている方の中には、第三者から見れば明らかなDV・モラハラにも関わらず「自分がDV・モラハラを受けているのか分からない」というケースが非常に多いです。
配偶者の子どもへの虐待に対しても、「配偶者の子どもへの暴力や暴言が酷く、悩んでいるけれどこれもしつけの一環なのかもしれない」「自分も親から同じことをされていたからそれが普通なのかもしれない」と、子どもへの虐待を虐待だと認識できず、子どもに心身の不調や問題行動があらわれるまで見過ごしてしまうことがあります。
また、「このしつけの仕方はおかしい気がする・・・」と不安を感じていても、加害者は「これはしつけの一環だ!」と強く主張するため、違和感を覚えつつも、加害者への恐怖や支配から何もすることはできない、という方もいらっしゃいます。
このコラムでは、しつけと虐待の違いや、どのような言動が虐待にあてはまるか、虐待の子どもへの影響、配偶者が虐待していると思ったらどのような相談先があるかについて解説してきます。
児童虐待の4つの分類と具体例
児童虐待は、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」において、以下の4つに分類されています。
- 身体的虐待
- 性的虐待
- ネグレクト
- 心理的虐待
それぞれの虐待の具体例について解説していきます。
①身体的虐待
- 打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷、たばこなどによる火傷などの外傷を生じるような行為
- 首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、食事を与えない、戸外に閉め出す、縄などにより一室に拘束するなどの行為 など
②性的虐待
- 子どもへの性交、性的暴力
- 性器や性交を見せる行為
- ポルノグラフィーの被写体などにすること など
③心理的虐待
- 言葉による脅かし、脅迫、子どもの自尊心を傷つけるような言動
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示したりすること
- 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをすること
- 配偶者やその他の家族(子どものきょうだい含む)などに対する暴力や暴言(ドメスティックバイオレンス:DV) など
④ネグレクト
- 適切な食事、衣服、住居などを整えず放置する、無関心・怠慢など
- 子どもの意思に反して学校などに登校させない(子どもが学校にいけない正当な理由がある場合を除く)
- 病気なのに病院に連れて行かない
- 乳幼児を家に残したまま外出する
- 祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人や自宅に出入りする第三者が虐待などの行為を行っているにもかかわらず、それを放置する など
「しつけ」と称した体罰が虐待につながる・・・日本の体罰禁止の取り組み
虐待で逮捕された親の供述で、「しつけのつもりだった」との主張を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか?
「しつけ」のつもりで叩いたり、怒鳴ったりの体罰等は、その瞬間恐怖によって一時的に問題行動が止まっても、子どもの問題行動を長期的に減少させることはできません。体罰は子どものしつけとしての効果はないことが研究で分かっています。ですので、効果がないと感じた保護者は体罰をどんどんエスカレートさせ、やがて虐待へと繋がっていきます。
日本では、2020年4月に児童福祉法等の改正法が施行され、親権者等がしつけを名目としての体罰をすることが法律で禁止されました。世界では、1979年に世界で初めてスウェーデンが体罰を禁止して以降、59番目の体罰禁止国となります。
また、2022年には、民法822条「親権を行う者は・・・監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」という懲戒権が削除されました。
懲戒とは
子が間違ったことをした時に、身体や精神に苦痛を加える制裁行為をすること
日本の体罰容認の意識の変化
しつけのためなら体罰をしてもやむを得ないという考え方は、日本においては根強いものでした。
しかし、法律で体罰が禁止になったことや、虐待事件のニュース、体罰が子どもに与える影響が周知されてきたことを受け、日本では体罰を容認する大人が、2017年の調査時の約6割から、2021年の調査時には約4割と、減少傾向にあります。
体罰としつけの違いは?
厚生労働省「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」が発表した「体罰によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」の中では、以下のように書かれています。
体罰とは
たとえしつけのためだと親が思っても、身体に、何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)のことです。どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止されます。
体罰に当てはまる行為
- 言葉で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた
- 大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた
- 友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った
- 他人のものを取ったので、お尻を叩いた
- 宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった
- 掃除をしないので、雑巾を顔に押しつけた
以下は体罰には該当しません
罰を与えることを目的としない、子どもを保護するための行為は体罰には該当しません。
- 子どもが道を飛び出しそうだったので、子どもの手をつかんだ
- 子どもがほかの子どもに暴力を振るいそうだったので、制止した
しつけとは
子どもの人格や才能等を伸ばし、社会において自律した生活を送れるようにすること等の目的から、子どもをサポートして社会性を育む行為です。子どもにしつけをするときには、子どもの発達しつつある能力に合う方法で行う必要があり、体罰で押さえつけるしつけは、この目的に合うものではなく、許されません。
体罰以外の暴言等子どもの心を傷つける行為
体罰は身体的な虐待につながり、さらにエスカレートする可能性がありますが、その他の著しく監護を怠ること(ネグレクト)や、子どもの前で配偶者に暴力を振るったり、著しい暴言や著しく拒絶的な対応をすること(心理的虐待)等についても虐待として禁止されています。
- 冗談のつもりで、「お前なんか生まれてこなければよかった」など、子どもの存在を否定するようなことを言った
- やる気を出させるという口実で、きょうだいを引き合いにしてけなした
虐待や体罰が子どもの脳に及ぼす影響
近年では、虐待や体罰、暴言が子どもの脳の発達に悪影響を及ぼすことが研究によって明らかになってきました。福井大学子どもの心の発達研究センター教授の友田明美氏は、令和3年度に行われた「脳画像に見るマルトリートメントー予防とケアによる回復へのアプローチー」の講演で、マルトリートメントが健康や寿命、脳の発達に与える影響を発表しています。以下では、子どもへの不適切な養育が、子どもに与える影響について友田氏のスライドを元に紹介します。
マルトリートメントとは?
欧米で一般化してきている、「不適切な養育」という考え方です。身体的虐待、性的虐待だけではなく、ネグレクト、心理的虐待を包括した呼称であり、大人の子どもに対する不適切な関わりを意味したより広い観念である。この考え方では、加害の意図の有無は関係なく、子どもにとって有害かどうかだけで判断される。(友田明美,「体罰や言葉での虐待が脳の発達に与える影響」,『心理学ワールド』80号)
①脳の変形
厳しい体罰→前頭前野が萎縮
前頭前野は、気分や感情・行動のコントロールに関わる脳部位。前頭前野の障害で起こり得る症状は、うつ病、非行を抑制できずに犯罪を繰り返す、薬物乱用など。
言葉の暴力→聴覚野の変形
聴覚野は、耳の聞こえ、会話、コミュニケーションに重要な領域。聴覚野の変形で起こり得る症状は、言葉の理解力の低下、聴力には問題の無い難聴など。
面前DV→視覚野の萎縮
視覚野は、視覚的な情報を一番始めに取り入れる部位。両親間の身体的な暴力を目撃したときよりも、言葉の暴力に接したときの方が、脳へのダメージが大きいことが分かっている。
面前DVについてはこちらの記事でも詳しく説明しています。
②健康・精神への影響
逆境的小児体験スコア(虐待、親の離婚、面前DV、家族のアルコール・薬物乱用、家族のうつ病・精神病、家族の服役等、逆境的な体験をスコア化したもの)が4以上の人は、0の人と比較して、
- 喫煙・・・4倍
- 抑うつ・・・4.6倍
- 自殺企図・・・12.2倍
- アルコール依存・・・7.4倍
- 薬物依存・・・4.7倍
- COPD(たばこの煙などの有害物質が原因の肺の病気)・・・3.9倍
であり、マルトリートメントは成長後の心のトラブルや、健康にも影響があることが分かっています。
③愛着障害
マルトリートメントにより、養育者との愛着関係(絆)がうまく形成されない時に怒り、イライラなどの感情コントロールが困難・落ち着きがない・不注意・衝動的な行動などがみられる。愛着障害の子どもは、意欲や喜び・ご褒美に対する脳の働きが弱いことが分かっています。
配偶者(もしくは自分)が虐待をしているかもと不安になったら相談しよう
配偶者や自身が虐待や体罰、マルトリートメントをしているかも・・・と不安になっても、家庭がDV・モラハラなどの支配関係にあったり、自身が追い詰められている時には、家族内で冷静に子どもへの対応について話し合うことは難しいかもしれません。
そのような時は、外部に相談してみることがとても重要です。第三者に相談することで、自分の家庭を客観視することができ、また自分の心も少し軽くなるかもしれません。
「子どもに手を上げてしまう」「怒鳴ってしまう」なんて相談したら、「非難されるのではないか」「通報されて子どもと引き離されてしまうのではないか」と不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのようなことはありません。子どもに関わる専門家が、具体的な解決策やサポートについて、一緒に考えてくれます。
虐待・体罰の相談というと、児童相談所も相談先としては適切ですが、なかなか児童相談所には相談しづらい・・・という方もいらっしゃるようです。児童相談所以外にも、子育ての悩み・虐待(不安)等の悩みを相談できる窓口はたくさんあります。
以下では相談先を一部ご紹介します。
子どもの虐待防止センター
リンク:電話相談
受付時間:月~金曜日10:00~17:00 土曜日10:00~15:00
(日曜日・祭日は休み)
子育ての悩みを抱えた方の相談窓口です。匿名で相談出来ます。
電話相談に助けられた声(子どもの虐待防止センターHPより)
- 以前、娘を叩きそうになったときにここに掛けたら、「ここはあなたのお里よ」と言われた。その言葉が忘れられない。今こうして平穏な気持ちでいられるのは、みなさんに助けられたから。ありがとうございました。
- 初めて、「自分の子どもがかわいくない」と言えた。完ぺき主義で子育てが苦痛だったが、「手を抜いていいんだよ」と言われて、少し楽になれた。
認定NPO法人児童虐待防止協会
リンク:子どもの虐待ホットライン
受付日:月~金曜日
(土日祝日・年末年始・8月13日~15日休み)
受付時間:午前11時~午後4時
子ども・親どちらも相談できます。匿名なので、氏名や住所を聞かれることはありません。
こんな時にお電話ください(子どもの虐待ホットラインHPより)
- ご飯をなかなか食べてくれない子が心配だが、時々憎らしくなる
- ストレスがたまっていて、子どものせいじゃないのに叩いてしまった。
- 子どもをかわいく思えない。自分だけうまく子育てできない。母親失格じゃないか。
- 自分が親にされていたことのと同じことを子どもにしてしまっている。どうしたらよいか分からない。
配偶者の暴力・虐待に耐えられないと思ったら別居を考えて
配偶者のDV・モラハラ・子どもへの虐待に耐えられない、子どもを守りたい、と思ったら、まずは自分とお子さんの身の安全を最優先に、別居をすることをおすすめします。「子どものためにも両親がそろっていた方がよい」「子どものために我慢しなければ」と思って我慢してしまう方もいらっしゃいますが、子どもにとって一番大切なことは、「家が安心できる場所」であることだと思います。
身寄りが無い場合、経済力がなくて家をでて生活できないという場合には、市区町村の役所に相談し、シェルターや母子生活施設への入居も可能です。相談してみれば、配偶者に洗脳されて狭められてしまった選択肢が、開けてきます。
DVの相談窓口は、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。
また、DV・モラハラで別居・離婚を考えている場合、別居前から弁護士へ相談しておくと、別居に向けた事前準備・配偶者への対応、別居後の流れ等、適切な動き方が分かりますので、ぜひ弁護士へ相談されることをおすすめします。
法律事務所リベロは、DV・モラハラを積極的に取り扱っている足立区の法律事務所です。お悩みの方は、お気軽にご相談ください。