家庭裁判所調査官の調査とは?調査官調査の流れと本当に見ているポイント

監護者指定や子の引渡し、面会交流など、子どもに関する問題で家庭裁判所の手続を進めていると、「家庭裁判所調査官による調査(調査官調査)を行います」と言われることがあります。
調査官調査が決まると、
- ちゃんとした親だと思われなきゃ…
- 子どもに何て話しておけばいいんだろう…
- 家庭訪問がある!部屋をきれいに片付けないと!
- 子どもが『パパに会いたい』と言ったらどうしよう…
- 少しでも隙を見せたら、相手に有利になってしまうかもしれない…
と、不安になる方も少なくありません。
しかし、家庭裁判所調査官は、親の「あら探し」をするために調査を行うわけではありません。
調査官が確認しているのは、子どもにとって安心して生活できる環境はどこなのか、子どもの利益(子の福祉)にかなう監護環境はどのようなものなのかという点です。
この記事では、家庭裁判所調査官の実務研究をもとに、調査官調査の目的や流れ、調査官が本当に見ているポイント、よくある誤解について分かりやすく解説します。
目次
家庭裁判所調査官とは?

家庭裁判所調査官とは、家庭裁判所に所属する専門職です。
監護者指定、子の引渡し、面会交流、親権者変更など、子どもに関する事件では、裁判官から命令を受けて必要な調査を行います。
具体的には、
- 親への面接
- 子どもへの面接
- 親子の交流場面の観察
- 家庭訪問
- 学校や保育園など関係機関への照会
などを通じて、子どもの生活状況や親子関係を把握します。
家庭裁判所調査官は、心理学、教育学、社会学などの専門的知識を活用しながら、子どもを取り巻く状況を多角的に調査します。
そして、その結果を「調査報告書」として裁判官へ報告します。
ただし、家庭裁判所調査官自身が「どちらの親を監護者にするか」を決定するわけではありません。
最終的に判断を行うのは裁判官です。
調査官調査は何のために行われるの?
調査官調査の目的は、親の優劣を決めることではなく、子どもの利益にかなう監護環境を判断するための資料を集めることです。
子どもに関する事件では、父母双方が「自分の方が子どもを大切にしている」と主張することがあります。
しかし、家庭裁判所が判断するのは、「どちらが良い親か」という点ではありません。
重要なのは、
子どもがどのような環境であれば、安心して健全に生活できるのか
という点です。
そのため調査官は、親の主張だけではなく、
- 子どもの現在の生活状況
- 親子関係
- これまでの養育状況
- 子どもの意思
- 家庭環境
などを総合的に確認します。
どのような事件で調査官調査が行われるの?
調査官調査は、子どもに関するすべての事件で行われるわけではありません。
家家庭裁判所が、
「子どもの生活状況や親子関係について、専門的な調査が必要である」
と判断した場合に実施されます。
例えば、次のような事件で行われることがあります。
- 監護者指定
- 子の引渡し
- 面会交流
- 親権者変更
- その他、子どもに関する家庭裁判所の事件
ただし、事件によって必要な調査内容は異なります。
親への面接だけで終わる場合もあれば、子どもへの面接、家庭訪問、学校や保育園への照会などが行われる場合もあります。
調査官調査の流れ

調査官調査では、事件の内容や争点に応じて、必要な調査が行われます。
ここでは、一般的な流れをご紹介します。
① 親への面接
まず行われることが多いのが、父母それぞれへの面接です。
調査官は、
- これまでの監護状況
- 現在の生活状況
- 子どもの様子
- 今後どのように養育していきたいか
などを確認します。
ここで大切なのは、「うまく話すこと」ではありません。
調査官が確認しているのは、話し方の上手さではなく、
親が子どもの生活や気持ちをどのように理解しているか
という点です。
子どもの利益をどのように考えているのか、これまでどのように子どもと関わってきたのかを、具体的な事実から把握していきます。
②子どもへの面接・子どもの意向調査
事件の内容や子どもの年齢、発達状況などに応じて、調査官が子どもと面接を行うことがあります。
子どもへの面接は、
「どちらの親と暮らしたい?」
という希望だけを確認するために行われるものではありません。
調査官は、子どもが両親の対立や現在の状況をどのように受け止めているのか、これからの生活についてどのような希望や思いを持っているのかを丁寧に確認します。
特に、年齢や発達状況から、自分の気持ちや生活への希望を一定程度表現できる子どもについては、その意向が確認されることがあります。
もっとも、子どもの意向は、
「子どもが希望したとおりに必ず判断される」
という意味ではありません。
調査官は、子どもが安心して自由に話せるよう配慮しながら、必要に応じて親や同居家族から離れた環境で面接を行います。
また、子どもの年齢や発達段階によっては、気持ちを明確な言葉で表現できないこともあります。
その場合には、面接での発言だけではなく、日頃の言動や生活の様子なども含めて、子どもの気持ちを丁寧に把握します。
調査官は、子どもの発言だけで結論を出すのではなく、親への面接や家庭訪問などで得られた情報とあわせて、子どもの利益(子の福祉)の観点から総合的に検討します。
③ 親子の交流場面観察
必要に応じて、調査官が親子の交流場面を観察することがあります。
これは、親子がどのように関わっているかを、実際のやり取りを通して確認するためです。
調査官は、子どもと親との間で自然な気持ちの交流がみられるか、子どもが親にどのような感情や態度を示しているか、親が子どもの気持ちや反応にどのように応じているかなどを観察し、親子関係の実情を把握します。
④ 家庭訪問
家庭訪問が決まると、
「ちゃんとした家に住んでいると思われないと」
「少しでも散らかっていたら問題になるのでは」
と心配になる方も少なくありません。
しかし、家庭訪問は、部屋のきれいさを採点するために行われるものではありません。
調査官が確認しているのは、
- 子どもがどのような環境で生活しているのか
- 親子が普段どのように関わっているのか
- 子どもが安心して過ごせる環境が整っているか
という点です。
例えば、
- 子どもが自然に親へ話しかけているか
- 困ったときに親へ助けを求められるか
- 親が子どもの気持ちにどのように応じているか
など、普段の親子関係を理解するための情報も確認されます。
もちろん、子どもが安全に生活できる環境であることは大切です。
ただし、家庭訪問で見られているのは「モデルルームのように片付いているか」ではなく、子どもの生活や親子関係の実情を把握することです。
⑤ 学校・保育園などへの照会
必要に応じて、調査官が学校や保育園、幼稚園などの関係機関へ照会を行うことがあります。
これは、親の話だけでは分からない子どもの日常の様子や生活状況を、客観的な立場から確認するためです。
例えば、
- 学校や園での子どもの様子
- 欠席や遅刻の状況
- 友人関係
- 保護者との連携状況
- 行事への参加状況
などについて確認されることがあります。
⑥ 調査報告書の作成
調査官は、親や子どもへの面接、家庭訪問、学校や保育園などへの照会で得られた情報を整理し、「調査報告書」を作成します。
調査報告書には、
- 調査で確認した事実
- 子どもの生活状況
- 親子関係
- これまでの監護状況
などがまとめられ、裁判官へ提出されます。
調査報告書は、裁判官が子どもの利益(子の福祉)の観点から判断する際の重要な資料の一つです。
特に、親双方の主張が対立している場合、調査官が中立的な立場から確認した子どもの生活状況や親子関係についての報告は、判断に大きな影響を与えることがあります。
調査官が本当に見ているポイント

ここまで見てきたように、調査官は面接や家庭訪問、関係機関への照会などを通じて、さまざまな情報を確認します。
では、調査官は実際に何を見ているのでしょうか。
調査官が見ているのは、
「子どもをどれだけ大切にしているか」
「自分がどれだけ監護者として適しているか」
といった親同士の優劣だけではありません。
子どもの利益(子の福祉)を実現するために必要な事実を把握すること。
これが調査官調査の基本的な考え方です。
ここでは、調査官が特に重視しているポイントを紹介します。
① これまで誰がどのように子どもを育ててきたか(監護の実情)
調査官が確認する重要な事項の一つが、これまでの監護の実情です。
具体的には、
- 食事の準備
- 保育園や学校の送迎
- 宿題や学習のサポート
- 病院への付き添い
- 生活リズムの管理
- 体調不良時の対応
など、日常生活の中で、子どもがどのように養育されてきたのかを確認します。
子どもがこれまでどのような環境で生活し、どの親との関わりの中で成長してきたのかを把握することは、今後の生活環境を考える上で重要です。
② 子どもの年齢や発達、特性を踏まえて状況を理解する
調査官は、子どもの言動だけを切り取って判断するわけではありません。
子どもの年齢、発達段階、性格や特性などを踏まえながら、その言葉や行動の意味を検討します。
例えば、
- 年齢に応じた自然な反応なのか
- 発達段階や性格から理解できる行動なのか
- その子らしい様子が表れているのか
といった点も確認します。
そのため、子どもが調査官の前で緊張して話せなかったり、普段とは違う様子を見せたりしたとしても、それだけで親子関係が否定されるわけではありません。
調査官は、その子どもの背景や状況を踏まえながら、総合的に判断します。
③親子の関係がどのように築かれているか
調査官は、親子が「仲が良いか」だけを見るわけではありません。
子どもが安心して親に頼ることができるか、親が子どもの気持ちや状態にどのように応じているかなど、親子関係の実際の様子を確認します。
例えば、
- 子どもが困ったときに親へ助けを求められるか
- 親が子どもの気持ちを受け止められているか
- 子どもの年齢や状況に応じた関わりができているか
といった点です。
家庭訪問や面接での一場面だけではなく、これまでの生活状況や関係機関から得られた情報なども踏まえて判断されます。
④ 子どもの意思・意向がどのように形成されているか
子どもの意思は、監護者指定や面会交流などの事件において重要な要素の一つです。
ただし、調査官は、子どもが
「ママと暮らしたい」
「パパに会いたい」
と言った言葉だけで判断するわけではありません。
確認されるのは、その気持ちがどのような経緯で生まれたのかという点です。
例えば、
- 子ども自身の自然な気持ちなのか
- 親や周囲から影響を受けたものではないか
- これまでの生活状況や親子関係と合っているか
などを慎重に確認します。
また、子どもの意思とは、明確な希望だけを意味するものではありません。
年齢や発達によっては、言葉でうまく表現できない場合もあります。その場合には、日頃の言動や態度なども含めて、子どもの気持ちを理解しようとします。
特に一定程度の判断能力が備わる年齢の子どもについては、その意向が確認されることがありますが、子どもの希望だけで結論が決まるわけではありません。
⑤子どもの利益を優先して考えられるか
調査官が確認しているのは、「完璧な親かどうか」ではありません。
大切なのは、親が子どもの利益を中心に考え、子どもの年齢や状況に応じた養育を行えるかという点です。
例えば、
- 子どもの気持ちを受け止めながら対応できるか
- 必要なルールや生活習慣を教えられるか
- 子どもの安定した生活を支えられるか
- 親同士の対立よりも子どもの利益を優先できるか
といった点が確認されます。
⑥子どもが安定して生活できる環境が整っているか
家庭訪問では、子どもが安全で安心して生活できる環境かどうかを確認します。
例えば、
- 安全に過ごせる生活空間があるか
- 年齢に応じたおもちゃや絵本、学習用品などが用意されているか
- 食事や睡眠など基本的な生活が安定しているか
- 学校や園に継続して通える環境か
- 危険なものが放置されていないか
などです。
⑦ 一つの出来事ではなく、すべての情報を総合的に見て判断する
調査官は、一つの発言や一度の出来事だけで判断するわけではありません。
親への面接、子どもの様子、家庭訪問、関係機関から得られた情報などを総合して、子どもの生活状況や親子関係を把握します。
そのため、
「家庭訪問で緊張してしまった」
「子どもが予想外のことを言った」
「うまく説明できなかった」
という一つの出来事だけで結果が決まるわけではありません。
調査官調査で大切なのは、良く見せることではなく、子どもの生活や親子関係の実情を正確に伝えることです。
よくある誤解Q&A
まとめ

調査官調査が決まると、「何を聞かれるのだろう」「少しでも失敗したら不利になるのではないか」と不安になる方は少なくありません。
調査官が見ているのは、子どもの生活状況や親子関係、これまでの監護の実情などを総合的に把握し、子どもの利益(子の福祉)にかなう監護環境はどのようなものかという点です。
そのため、一度の受け答えや家庭訪問の様子だけで結論が決まることはありません。
また、取り繕おうとするよりも、普段どおり子どもと接し、ありのままの生活や親子関係を誠実に伝えることが大切です。
調査官調査は、不安や緊張を感じやすい手続ですが、その目的や調査官が本当に見ているポイントを知ることで、必要以上に恐れる必要はありません。
この記事が、調査官調査を迎える方の不安を少しでも和らげ、落ち着いて調査に臨むための一助となれば幸いです。
参考文献
- 金子隆男ほか『親権(監護権)の帰すうを判断することが求められる家事事件における子どもとの面接の在り方について』家裁調査官研究紀要1号
- 中澤智ほか『子の監護をめぐる紛争における家庭裁判所調査官の調査の在り方』家裁調査官研究紀要第9号
- 山本法子ほか『子の監護状況調査における観察について―調査の目的及び発達段階に応じた着目点の整理―』家裁調査官研究紀要第9号




