未払いの養育費を支払ってもらうには-第三者からの情報取得手続と強制執行-

以前離婚調停を申し立てたご依頼者様が再度ご相談にこられました。

先生こんにちは。
元夫と離婚調停時に養育費の取りきめをしましたよね。
調停調書にもその内容を記載し,お互い合意して離婚しました。
でも離婚後,夫からは養育費を支払われたことがありません。
このような場合どうすればよいのでしょうか・・・。

所長弁護士 渡辺

そのような養育費未払いの事案,当事務所でもよくご相談を受けます。
調停調書や公正証書などの債務名義と呼ばれる書類のなかで,
養育費の取り決めをしていた場合は,強制執行手続によって
未払い分の養育費と今後発生する養育費を相手から支払ってもらうことができます。

でも,相手の財産状況や勤務先だとか現在の状況がはっきりわかりません。
そういった場合は無理ですよね・・・

所長弁護士 渡辺

ご安心ください。
現在は法改正によって財産や勤務先情報の取得が容易になりました。
では,相手方の勤務先などが不明の場合の情報取得手続から強制執行手続が開始されるまでの流れを解説したいと思います。

目次

STEP1 財産開示手続を申し立てる

調停等で取り決めをした金銭を支払ってもらえない場合は,強制執行手続によって相手の給与や預金口座,不動産等を差押えて取り立てることができます。
相手の勤務先や財産状況等の情報が不明な場合は,まずはじめに財産開示手続を,債務者が居住する地域を管轄する裁判所へ申立てます。

財産開示手続とは

そもそも財産開示手続とはどのような手続でしょうか?
財産開示手続は、権利実現の実効性を確保する見地から、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続となります。

財産開示の実施が決定すると,裁判所から債務者へ期日の呼び出しがあります。
債務者は、財産開示期日に出頭して債務者の財産について陳述しなければなりません。債務者が財産開示期日に出頭しなかったり、債務者の財産について嘘を言った場合は刑事罰が科されることがあります。

また債権者は、財産開示期日に出頭して、債務者の財産の状況を明らかにするため、裁判所の許可を得て債務者に質問することができます。ただし、根拠のない探索的な質問や債務者を困惑させる質問は許可されません。

従来の財産開示手続では債務者が期日に裁判所へ出頭しないことが多く,差し押さえるべき財産が分からずに債権を回収できないという問題がありました。
このようなことを受け2020年5月に改正民事執行法が施行され,財産開示での裁判所の呼出に対して,出頭しなかった場合の罰則を6ヶ月以上の懲役または50万円の罰金に強化されました。
詳しくは以下の関連コラムをご確認ください。

財産開示手続で取得できる情報

  • 債務者が保有する預貯金口座(銀行名,支店名,口座番号,残高)
  • 債務者名義の株式や国債の銘柄や保有数
  • 債務者名義の不動産に関する情報(土地・建物の所在地,家屋番号等)
  • 【養育費や婚姻費用を差押えする場合】給与の支給情報

その他生命保険や自動車,ゴルフクラブ会員権等の情報も取得できます。

差押えの対象が給与もしくは不動産の場合は財産開示手続が必要となりますが,
預金口座を差押えする場合は財産開示手続を踏まずに,後述する第三者からの情報取得手続を申し立てることができます

STEP2 第三者からの情報取得手続を申し立てる

財産開示期日が終わり期日調書等,財産開示が行われたことを証明するための文書が裁判所から手元に届くと次のステップに進めます。
それが「第三者からの情報取得手続」です。

第三者からの情報取得手続とは

第三者からの情報取得手続とは,権利実現の実効性を確保する見地から,
財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらう手続きのことです。
この手続きも財産開示同様,債務者の所在地を管轄する裁判所に申し立てます。

第三者からどんな情報を提供してもらえる?

  • 債務者が保有する預貯金口座(銀行名,支店名,口座番号,残高)
  • 債務者名義の株式や国債の銘柄や保有数
  • 債務者名義の不動産に関する情報(土地・建物の所在地,家屋番号等)
  • 給与(勤務先)に関する情報
所長弁護士 渡辺

財産開示手続は財産の情報を債務者本人が明らかにしなければなりませんが
第三者からの情報取得手続は,債務者の財産情報を第三者に提供してもらいます。
内容は似ていますが,この点が各手続の大きな違いです。

情報提供命令が発令されると

要件が満たされ,申立が容認されると一般的に以下のような流れで申立人に情報が提供されます。

STEP
情報提供命令の発令

債務者及び申立人に対し,情報提供命令正本が送達されます。
債務者は1週間以内に執行抗告を行うことができます。
抗告を行わず1週間が経過すると情報提供命令が確定します。

STEP
第三者へ情報提供命令正本が送達

裁判所から第三者へ情報提供命令正本が届くと,それに従い回答書を裁判所へ提出しなければなりません。
不動産に関する情報は法務局から,給与の支給に関する情報は債務者の所在地の市区町村及び日本年金機構等から提供してもらいます。

STEP
裁判所から申立人(債権者)へ情報を送付

債務名義の正本の還付申請を申立てと同時に行うと,情報提供書とともに債務名義の正本も同封されて返還されます。

申立が却下された場合には,申立人へ却下決定正本が送達されます。

第三者からの情報取得手続の利用方法

  • 申立先
    債務者の住所を管轄する地方裁判所
  • 手数料
    申立書1通につき原則1,000円(収入印紙を貼付する)
  • 必要書類
    申立書
    債務名義(判決,和解調書,調停調書等)の正本
    (不動産や給与情報を取得する場合)3年以内に財産開示手続が実施されたことを証明するための疎明資料等

財産開示手続及び第三者からの情報取得手続について
相手の預金口座や,勤務先がもうすでに分かっている場合にはこの2つの手続を踏むことなく
STEP3の債権差押命令申立を行うことが出来ます。

STEP3 債権差押命令を申立てる

上述した2つの手続を経ると,必要な情報が全て揃います。
そうすると債権差押命令を申立てすることができます。
ここでは給与を差押えする場合の手順や流れをご説明します。

扶養義務に係る債権差押命令とは

扶養義務に係る債権差押命令とは婚姻費用や養育費の未払い時に
相手の財産を差押えして支払ってもらうことをいいます。
債権差押命令は必要書類を揃え,申立書が受理されるとすぐに発令されます。

申立に必要な書類

  • 申立書
  • 債務名義の正本
    →調停調書,審判書,判決,公証人役場で作製した公正証書等
     (必ず正本が必要となります。審判書謄本等では債権差押できないので,裁判所へ交付申請を行いましょう)
  • 執行文
    →判決については裁判所で執行文の付与を受ける必要があります。
     (債務名義により執行文が必要なものとそうでないものがあるので,関係各所に確認すると良いでしょう)
  • 債務名義正本の送達証明書
    →審判書正本や判決正本を債務名義とする場合には確定証明書も必要となりますので付与申請を行いましょう。
  • 関係者についての証明書
    ・給与を差し押さえる場合,債務者を雇用している会社の代表者事項証明書
    ・住民票(現住所と債務名義上の住所が異なる場合)
    ・戸籍謄本(現在の指名と債務名義上の氏名が異なる場合)

費用

  • 収入印紙 4,000円分
  • 郵便切手
    (管轄の裁判所ごとに金額が変動する場合がございます。)

申立から差押え実行までの流れ

STEP
裁判所へ債権差押命令を申し立てる

債務者の住所を管轄している地方裁判所へ申立書を送付します。

STEP
債権差押命令の送達

債務者と第三債務者(給与差押えの場合は債務者の勤務先)へ債権差押命令が送達されます。
このとき第三債務者には陳述書も送付されるため,債務者への給与支給情報等を記載し,陳述書を裁判所へ提出します。

STEP
債権の回収

2の手続で,第三債務者から差押えした債権を債権者へ支払うことに同意する旨の回答をが得られると,債権をスムーズに回収することが出来ます。

当事務所の解決事例(財産開示から差押えまで)

裁判によって和解離婚が成立し、その際に養育費に関することを和解条項に定めました。
しかし離婚後、元夫から養育費が支払われることはありませんでした。
そこで当職が代理人となり、まず財産開示を裁判所へ申立てました。
しかし元夫は出頭せず,期日は終了してしまいました。
次に第三者情報開示手続を利用し元夫の現在の職場を探しました。手続きにより現在の職場が判明した後は、すぐに裁判所に給与の差押えを申し立て、職場が元夫の給与の中から直接依頼者に養育費を支払うことになりました。
この依頼者は現在でも職場から養育費を支払ってもらっています。

所長弁護士 渡辺

この方の場合,財産開示期日に元夫が出頭しませんでしたが,
財産開示が実施されたことの証明書を添付し,第三者情報開示の申立てを行うことが出来ました。

取り決めた金銭はしっかりと支払ってもらいましょう!

いかがでしたでしょうか?
このように,相手の金銭に関する情報を何も把握していなかったとしても
離婚時に金銭の取り決めをした書類(=債務名義)を残しておけば,養育費や婚姻費用が未払いとなっても,
裁判所手続を経てしっかりと回収することが出来ます。
ですから,離婚時に養育費等の取り決めをする際には公正証書や調停調書等で
取り決め事項や金額等をしっかりと記載し,何かあったときのために残しておくことをおすすめします。

監修者情報

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行(東京弁護士会)

特許事務所にて 特許出願、中間処理等に従事したのち、平成17年旧司法試験合格。
平成19年広島弁護士会に登録し、山下江法律事務所に入所。
平成23年地元北千住にて独立、法律事務所リベロを設立。


弁護士として約17年にわたり、「DV・モラハラ事件」に積極的に携わっており、「離婚」等の家事事件を得意分野としている。極真空手歴約20年。
悩んでいる被害者の方に「自分の人生を生きてほしい」という思いから、DVモラハラ加害者との対峙にも決して怯まない「知識・経験」と「武道の精神」で依頼者を全力でサポートすることを心がけている。

法律事務所リベロ

所長 弁護士 渡辺秀行

  • 東京弁護士会所属
  • 慶応大学出身
  • 平成17年旧司法試験合格

弁護士として約17年にわたり、「DV・モラハラ事件」に積極的に携わっており、「離婚」等の家事事件を得意分野としている。極真空手歴約20年。
悩んでいる被害者の方に「自分の人生を生きてほしい」という思いから、DVモラハラ加害者との対峙にも決して怯まない「知識・経験」と「武道の精神」で依頼者を全力でサポートすることを心がけている。

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