【結婚前はあんなに優しくて素敵だったのに】モラハラ加害者はなぜ豹変するのか?ー自己愛性パーソナリティ障害(NPD)の虐待サイクルについて解説ー

モラハラ被害にあってしまった人に対して、「そんな相手と結婚するのが悪い」「結婚する前に見抜けなかったのか?」と誹謗中傷する人がいます。

また、自分がモラハラ被害にあっていると気づいて「私に人を見る目が無かった」「私が悪いのだ」と自分を責めてしまう人がいます。

しかし、モラハラを見抜くことは、非常に難しいと言われています。このコラムでは、なぜモラハラを見抜くことが難しいのかを解説したいと思います。

目次

豹変前の優しさや熱烈なアプローチは「ラブボミング」という手口

モラハラ被害にあった方がよく言われるのは、「結婚前は優しく素敵な人だった」「結婚後、出産、マイホームの購入などのタイミングでいきなり豹変した」です。これは、被害にあった方が恋に盲目的だったとか、男を見抜く能力がなかったとかではなく、モラハラ加害者が「本当に優しく素敵な人」として振る舞っていたのです。

また、相手から熱烈なアプローチを受けることもあります。まるで運命の人に出会ったかと言わんばかりに、過剰な愛情表現を示し、過剰な注意をひいたり、過剰なケア、手の込んだプレゼントを渡すなど、まるでドラマのような演出を行います。

「優しくて、魅力的で、自分のことをとても大切にしてくれた」そんな人が、結婚や出産を期にまるで別人のように変わってしまうのですから、被害者は非常に混乱します。そして、最終的に「自分のせいで相手が変わってしまったんだ」と罪悪感に苛まれるようになってしまいます。

これらの行動は、モラハラの原因となる自己愛性パーソナリティ障害(NPD)を持つ人間によく見られる、ターゲットを洗脳するための第一段階である「ラブボミング」という手口です。

自己愛性パーソナリティ障害(narcissistic personality disorder:NPD)

「理想の自分」と「何もない自分」とい両極端な自己イメージにとらわれ、本来の「等身大の自分」を肯定することができないパーソナリティの障害
幼児期からのそのままの自分では愛されない」という感覚を乗り越えるため、「誇大的、万能的、理想的な偽りの自己」を作り続ける。その自己イメージが崩れてしまうことを非常に恐れ、対人関係や恋愛関係ではトラブルになることも多い。家庭や職場におけるモラハラの加害者となっているケースがしばしばみられる。

ターゲットを洗脳し、支配下に置くための4つの段階

アメリカでは、ナルシスト(自己愛人間)の4段階の虐待サイクルという概念があります。日本でよく言うナルシスト(自分が大好きで自分に自信がある人)ではなく、病的な自己愛を持っている人を指します。

このコラムでは、モラハラの加害者となるケースが多い自己愛性パーソナリティ障害を持つ人を「ナルシスト」と称して説明していきたいと思います。

ナルシストの虐待サイクル(The Narcissistic Abuse Cycle)

  • 第1段階:ラブボミング(理想化)/Love bombing
  • 第2段階:脱価値化/Devaluing
  • 第3段階:廃棄/Discarding
  • 第4段階:フーバリング/Hoovering

第1段階:ラブボミング(理想化)/Love bombing

ターゲットに定めた相手を自分の手の届くところに置いておくためのテクニックであり、ターゲットになり得るか見極める期間でもあります。

好意対象を理想化し、あの手この手でターゲットを手に入れようと必死になります。

ラブボミングの具体例

  • あなたみたいに素敵な人は初めて出会った」等、相手を過度に称賛する
  • 過度な共感を示す
  • プレゼントをやたらと送る
  • スペシャルなディナーや高級ホテル、旅行に連れていく

ラブボミングをされたターゲットは、まるで自分がドラマの主人公になったような気持ちになり、心を奪われてしまいます。

また、ターゲットがもともと自己肯定感の低かった場合、「こんなに自分を愛してくれる人はいない」と相手に惹かれてしまいます。

しかし、これらの行動は、全て演技です。

ナルシストの人は、本質的に自己価値を感じることや、等身大の自分を肯定することが出来ません。

人格形成が未成熟なため、他者をひとりの人間として認識することができず、恋愛関係=支配関係だと思っているため、パートナーのことは自分の価値を高めてくれる、自己陶酔を供給してくれる道具としてしか見ることができないのです。

自己陶酔的な供給(Narcissistic Supply)とは?
自己愛性パーソナリティ障害を持つ人(ナルシスト)が必要とする、「万能感、特権意識、特別に扱われているという感覚、人を支配できていると感じる気分、終わりのない賞賛、承認、注目や感情的なエネルギー」のこと。幼少期のトラウマや愛着の問題の結果、大人になっても自分の低い自尊心、無価値感を補うため、人から際限なく搾取しようとする。

これは、ナルシストに悪意があるのではなく、生育環境や認知の歪みにより、そのような人間関係しか能力的に築くことができない、そのような人間関係しか知らないということが原因です。

ナルシストは、「自分」というものがありません。本当の自分を受け入れることができないため、「価値があるとされているもの」「周囲からの評価が高いもの」を必死に自分の中に取り入れることで、なんとか自我を崩壊させずに生きてきた人です。

人生をかけて習得してきたものですので、「良いと思ったものを真似る」「理想の人を演じる」「相手が好きになりそうな自分を演出する」ことが非常に上手いです。

ターゲットが完全に自分のものになったと確信できるまで、ターゲットを幸せな気分にさせ、弱みに漬け込み、自分の虜にさせようとするのです。

第2段階:脱価値化/Devaluing

関係が進み、相手のことを知っていくと、「思ってたのと違うな」「この人のこういうところはちょっとな」と、自分の理想とは違かったという経験は誰もがするものです。

健康な人は、「良いところもあれば悪いところもあるのが人間」、「他人は自分とは別の価値観や考え方をもった一人の人間である」という認識のため、相手が自分の理想通りの言動をしなかったり、関係が理想通りにいかなくても「そんなものだな」とそれを受け入れることができます。

しかし、ナルシストは基本的に両極端の白黒思考なため、少しでも自分の都合の悪い状況や、相手が自分の理想通りに動いてくれない場面があると、ラブボミング時にはすべてが白(悪い面さえもよい方にしか取らない)だったものが突然スイッチが切り替わるかのように黒になります。それが「脱価値化」です。

モラハラの豹変のスイッチは、ナルシストであるモラハラ加害者の中で、ターゲットの脱価値化が起こった状況だと言えます。

脱価値化が起こるスイッチ

  • 結婚して生活していくうちに、自分の思い通りに動いてくれない部分が出てきた
  • 妊娠、出産で子供が優先になり自分を特別扱いしてくれなくなった
  • 相手が完全に自分のものになったと確信したとき

ナルシストは、無意識の中で「自分だけを特別扱いして欲しい」「自分は誰よりも優れていて何をしても許される」と思っています。

しかし、大人としての知能はあり、社会常識や周囲の評価を人一倍気にしますから、直接配偶者に「子供よりも自分を特別扱いしてくれ!」「自分を褒めてくれ!何をしても許してくれ!」とは言えませんし、そのような感情を抑え込んでいます。

社会では、「大人として社会ではこういう風にふるまうべきだ」という見本通りに振る舞うことで、そのような感情を外に出さないでいられます。

しかし、現実は自分を特別視してくれない、自分の思い通りにならない場面が多いので、無意識のうちにそれが怒りとなり、本人の中で蓄積されていきます。

そして、そのイライラ、怒りの処理を自分の支配下の人間=ターゲットに押し付けて自分の心を守るようになります。

これが、モラハラやDVの始まりです。

ナルシストは、ターゲットが本来持っている価値観や趣味、挑戦、意欲といったポジティブなものに嫉妬し、それらを否定し、屈服させ、相手をこき下ろすことで自分が価値のある存在であると思い込もうとします。

そして、心の中に溜まったネガティブな感情に飲み込まれて抑うつ状態になるのを回避するために、ターゲットに自分のネガティブな感情を処理させます。

ターゲットからポジティブなものを奪い、ネガティブなものはどんどん押し付けるので、最終的にターゲットは心身ともにボロボロになっていきます。

ラブボミングと脱価値化の段階は行き来することがある

ターゲットが周囲に被害を打ち明けたり、モラハラへの対処をし始めると、「相手をコントロールできなくなった」とナルシストは焦り始めます。

また、別れを切り出されたり、別居により距離を置かれると、今まで依存していたターゲットから、自己陶酔や自分には価値があるという感覚を得られなくなるので、パニックになります。

その時に、またラブボミングの段階に逆戻りする場合があります。

モラハラ被害者が別れを切り出すと、「今まで悪かった、もう二度としない」と言って、一時的にとても優しくなることがあります。この行為をラブボミング(または第4段階のフーバリング)DVやモラハラのサイクルでは「ハネムーン期」と言われます。

ターゲットが離れて、自分が被害者のエネルギーを奪えなくなることに恐れを抱いた加害者は、ラブボミングを行い、ターゲットが離れていかないように餌を与えます。

実際にはまた支配関係に戻るための行動なのですが、ターゲットは「相手は変わってくれたんだ」と信じ、離れられずに元に戻ってしまいます。

ナルシストは、ターゲットがまた自分の元に戻ってきたことで、「こいつは自分から何があっても離れないのだ」という安心を得て、また脱価値化の段階に進みます。

第3段階:廃棄/Discarding

ラブボミングと脱価値化を繰り返して、とうとうターゲットが本気でナルシストの元から離れようとするとき、ナルシストは自分が相手をもうコントロールできないこと、自分が不利な立場になってしまったことを目の当たりにします。

ナルシストは、人から拒否されること、拒絶されること、見捨てられることを非常に恐れているので、自分が傷つく前に相手を傷つけたり、自分が捨てられる前に相手を捨ててやるという考えを持っています。

ですから、今まで従順だったターゲットが自分から離れていくという事実を知ったとき、ターゲットを敵とみなし、攻撃を始めます。

自分の非を絶対に認めたくない、自分の行動に責任を取ることが絶対に嫌なナルシストは、「自分は何も悪くない、悪いのは全部相手だ」と周囲に知らしめようとします。

時に、フライングモンキー(取り巻き)と呼ばれる、ナルシストの意見に賛同し、代わりにターゲットに攻撃してくれる人を駒として使い、大勢でターゲットを追い詰めようとすることもあります。

離婚調停や離婚裁判で、モラハラやDVを「記憶にない、覚えていない」と認めなかったり、被害者がモラハラだと事実無根のでっち上げをしたり、被害者がどれだけ親権者として失格か等、とにかく人格を攻撃してくるのがよく見られる例です。

調停委員の前で演技をし、まるで自分が被害者のように思わせ、調停委員を味方に取り込むのもよくある例です。

このような巧妙で悪質な手口で、被害者が被害を信じてもらえなかったり、被害者が悪者に仕立て上げられてしまうことも多いです。

第4段階:フーバリング/Hoovering

ターゲットから別れを告げたり、ナルシストから捨てられるなど、2人の関係が終わり、ターゲットが気持ちを整理したころに、ナルシストから連絡がくる場合があります。

この連絡は、復縁を迫るものではなく、単なる用事を装っていたり、特に意味の無い連絡の場合もあります。ターゲットの様子をうかがい、相手が自分によってまた感情が動く(=コントロールできる)ようなら、もう一度捕まえようとします。

ナルシストの内面は、空虚、孤独、不安、無価値感でいっぱいです。それを今までターゲットが必死に与えて、自己陶酔を与えていました。

ナルシストは、他人からの自己陶酔の供給がなければ生きていけないので、供給が減ってくると、過去の恋愛や人間関係に逆戻りして、過去のターゲットから自己陶酔を供給しようとします

自己陶酔を切らさないように、複数のターゲットをキープしている場合もあります。新しいターゲットから得られる自己陶酔が自分の思うような物では無かった場合も、元のターゲットに戻ってくることがあります。

しかし結局、ナルシストは「再び支配して自分のストレスを解消できるサンドバッグ」が欲しいだけなので、いくらフーバリング時にターゲットが喜びそうな発言をしたり、態度を改めるそぶりを見せたとしてもそれらは全て演技です。

最初にモラハラを見抜くのは非常に難しい。しかし手口を知ることで、虐待のサイクルから抜け出すことができる場合も。

擬態した状態のナルシストの本性を見抜くことは、とても難しいと言われています。確かに、付き合い始めのうちに小さな違和感を感じたという被害者もいますが、それは今思い返したからこそそう思うものです。

小さな違和感を感じても、付き合い始めや結婚したばかりの頃は「付き合ったばかりだし、結婚したばかりだし、お互い合わないところをすり合わせて関係を築いてこう」と努力することは誰でもするものです。

しかし、パートナーが豹変し、モラハラ被害を受けているのではと気づいた時に、相手の行動パターンを知っておくことで、これ以上被害に遭いつづけることを防げる場合があります。

加害者から離れた後の苦しさや、空しさはモラハラが原因の後遺症だと知る。

特に、一度別れを決意した後にフーバリングをされると、ターゲットも「この人しかいない」「離れた自分が間違ってた」「虐待をしていたのは本当の姿ではない、優しい面もあるんだ」と複雑な感情を抱いてしまうことがあります。

これらの感情は、被害者に問題があったり、原因があるわけではなく、加害者の洗脳の後遺症です。

「あの人と別れても、苦しみは続く。苦しみの原因は自分にあってあの人のせいじゃなかったんだ」「こんな自分を愛してくれる人はあの人だけだった」と思ってしまいがちですが、そもそもそのような精神状態になってしまったのは加害者のモラハラという心理的虐待が原因です。

復縁を迫られたら、「フーバリングされている」と相手の行動を慎重に観察する。

「自分は変わるからもう一度チャンスをください」「反省した、もう二度としない」「どんなにあなたのことを愛しているか分かった。大切だか分かった」等言われたとき、大きく心が揺れると思います。

その時の加害者の目的は「自分の支配できるところにターゲットを置いておきたい」というものです。本当にほしいのは、ターゲットではなく、ターゲットが供給してくれる自己陶酔であるということを理解すると、フーバリングされても冷静に対処しやすいのではないでしょうか。

もし結婚前に「違和感」があったら・・・その感覚はあなたの本能が出す危険信号です。

ナルストであるモラハラ加害者は、外面が非常に良いため、交際中に「この人はモラハラだ」と断定できるようなボロはなかなか出しません。

しかし、交際期間中から、相手に「よく分からないけどなんとなく違和感を覚える」ことがあります。

相手の言動や態度に「違和感」を抱く正体は、あなたが心の底では「相手の行動は何かおかしい」「もっともらしいことを言っているけれど矛盾している」と見抜いているにもかかわらず、「まさかそんなはずはない」「相手がそんな酷い人のはずがない」と認められなくて相手の行為を正当化しようとしているからです。

もし交際期間中に違和感を抱いたら、自分の感覚を大切にして、そっと離れていくことをおすすめします。離れるのが嫌な場合、相手とその違和感について話し合ってみてください。もし話し合いがはぐらかされたり、相手が自分を尊重してくれなかった時は要注意です。

自分の感覚を大切にして、何か違うと感じる相手と離れることは、「わがまま」ではありません

それは「自分を大切にする」ということです。

まとめ:モラハラを見抜くことは難しい。モラハラ被害者にあっても自分を責めないで

今回のコラムでは、モラハラを見抜くことが難しいことを理解していただけたと思います。

社会生活を一緒に送っていて、親しくなったとしても、その人が家族や配偶者などの「内の人」にどのような態度を取っているかは分からないものです。

ですから、もしモラハラ被害にあってしまった方と接する機会があったら、「どうして見抜くことができなかったのか」と決して責めてはいけません

また、「自分はモラハラを見抜ける」と自信がある人も要注意です。

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、「大の大人がこんなことをするはずがない」と疑ってしまうような逸脱した行動を躊躇なく行います。通常、人は他人を一人の人格として、良心がある人間として見ていますから、そのような行動をされると脳は混乱してしまいます。

その時に、「自分はモラハラを見抜ける」と自信を持っている場合、「自分がモラハラを受けるはずがない、今のはモラハラではない」と、モラハラを認めることができなくなり、相手の行動を正当化してしまうことがあるのです。

誰でも、モラハラ被害にあってしまうことはあります。

大切なことは、自分が傷ついた時に、「自分は傷ついたのだ」という感覚と向き合うこと。「自分を傷つける人からは、離れていい、我慢する必要はない」と自分を大切にしてあげることだと思います。

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